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兵庫県立粒子線医療センター

ニュースレターNo.8
March 1998


CONTENTS

I  県立粒子線治療センター(仮称)整備委員会開催‥‥‥‥‥‥‥1


1 県立粒子線治療センター(仮称)の事業進捗状況
2 放射線医学総合研究所の臨床試行の状況
3 国立がんセンター東病院の状況


II 県立粒子線治療センター(仮称)の建物設計について‥‥‥‥‥4
1 はじめに
2 建物設計経緯
 3 建物の設計にあたって
4 建物の意匠デザインについて

★ What's New    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

I  県立粒子線治療センター(仮称)整備委員会開催

 粒子線治療センター(仮称)の整備にあたり、各方面の専門の方々からご意見をいただくため、平成11年3月25日(木)、「県立粒子線治療センター(仮称)整備委員会」が播磨科学公園都市の先端科学技術支援センターで開催されました。委員会では、会議に先立ち、粒子線治療センター建設現場の視察を行い、今夏完成予定の照射治療棟を見学していただきました。

 会議では、兵庫県井戸副知事から開催のあいさつを行い、阿部光幸委員長(県立成人病センター総長)の進行のもと、県から事業の進捗状況等の説明、辻井博彦委員(放射線医学総合研究所重粒子治療センター治療・診断部長)から「放射線医学総合研究所の臨床試行状況」、池田恢先生(国立がんセンター東病院放射線部長)から「国立がんセンター東病院の状況」などについて報告をしていただきました。
 今回のニュースレターでは、この委員会報告の一部を紹介します。
1 県立粒子線治療センター(仮称)の事業進捗状況
 粒子線治療センター(仮称)は、照射治療装置とこれを格納する照射治療棟及び50床の病床を有する病院棟で構成されます。
平成10年度は、治療装置の製作及び照射治療棟の建設のほか、病院棟の実施設計を行い、平成12年度末の完成を目指して事業は順調に進捗しています。
(1) 粒子線治療装置
 現在、加速器の心臓部分とも言える主加速器系の機器、照射野を形成する機器、その他各系の制御装置等を製作中で、今年度末までに主要な機器の95%以上が完成します。また、工場内では昨年度までに製作した機器の出荷に向けた最終確認・準備に取り組んでいます。
 一方、現地ではこの3月から照射治療棟への機器搬入・据付調整工事に着手し、今年 12月中旬からビーム調整試験を予定しています。

(2) 照射治療棟
 3月中旬には最終のスラブコンクリートを打設し終え、現在は最上階屋根の工事を行い、外壁のタイル貼り工事も実施しているところです。
建物内部には設備機器類や電機盤類等も次々と設置し、4月末には66,000KVAの受電が行われる予定です。
今後、次々と外部の足場も解体され、7月末の竣工に向け、建物が徐々に姿を現してきます。
2 放射線医学総合研究所の臨床試行の状況

次に辻井委員の報告要旨を紹介します。
 炭素イオン治療の試行体制については、一番上にネットワーク会議があり、半年に一度開いている。プロトコールは、部位別分科会で作り、計画部会で総仕上げを行う。

分科会の方は外科、内科の専門家、疾患別の専門家が、計画部会は半数以上が放射線科医が占める。また、独立して倫理委員会がある。いろいろな部位から適応疾患を見つけだすということなので、プロトコールを年中作成しているという状態で、すでにエントリーが終了したものもいくつかある。

頭頚部は、現在、第3番目のスタディで、これは最初のフェイズIIスタディである。試行を開始して5年目になり、ほぼいろいろな部位がフェイズIIに移ろうとしている。
治療期間は、頭頚部で6週間18回、4週間16回を行い、両者を比較して差がないということで、より短い分割を用いて現在のフェイズIIスタディを行っているところである。

肺の方も最初6週間で行ったが、現在3週間で現時点ではフェイズIIに移っている。肝臓、子宮、前立腺も1、2年でフェイズIIに移行できる予定である。
 現時点で577例プラス15部位という状況で、半年以上観察可能な患者さんを半年ごとに評価している。
フェイズI 、IIスタディということで、第1の目標は副作用、安全性を確認するということ、それから第2に効果の手がかりを得るということで、これが一番大事なところかと思われる。線量を徐々にアップするということで、下の線量の時には安全なのだが再発の危険性がある。上に行くとちょうど逆である。


質問)  最近の成績がよくなっているのはどういう理由か。

(辻井委員) 線量の上限がわかったのと、照射方法の2点である。
腫瘍コントロールは治療線量を上限よりやや下にもっていき、それから照射方法を多門にすることがポイントになると思う。この辺はぜひ兵庫の方でノウハウを十分に生かしていくことができれば、我々のデータも非常に生きるのではないかと思う。
最初は線量を徐々にアップするスタディなので、生存率はプライマリーエンドポイントではないのだが、やはり年数が経ってきて一定の症例数になり、生存率も出してみようということになった。

頭頚部はだいたい40から50%位と見込んでいる。中枢神経はローカルコントロールよりは最初低かったが、線量アップに伴って明らかにサバイバルが向上しているというデータが出てきている。

肺癌は今のところ大体60から70%程度で、手術が約70%なので、比較的良いデータが出ているのではないかと思われる。

肝臓も手術よりはかなり良いデータが期待できそうである。
前立腺については、今のところ生存率のデータとしては全く問題のないところであるが、経過が長い疾患なのでまだまだと考えている。

子宮癌がだいたい50%前後で、骨軟部は我々重粒子の中で一番期待しているところである。

食道癌が最近データがまとまり、今の時点では結論として重粒子の適用から現実にはずしてもよいのではないかということで、プロトコールスタディーを終えるということになった。
3 国立がんセンター東病院の状況
 次に、国立がんセンター東病院の池田恢先生の報告要旨を紹介します。我々のところはプロトンで、今年の年頭から治験をやっており、現在、症例を集積中である。

 3月末までで症例集積を終わってデータを出そうということだったが、実は昨日までは症例が3例だったのだが、それが昨日4例目のプランニングが終わり、5例目、6例目の候補者が出てきたところである。

国立がんセンターのプロトンの装置は、1995年に予算がおり、それから、1997年の段階で建物が竣工し、98年には生物実験を行った。1997年からプロトコール作りを始め、患者さんの治療をスタートしたというところである。
我々のプロトン装置は、サイクロトロンであり、ガントリーシステムの2室と固定照射室で構成される。現在は、ガントリーを使って治療している。

第1スタディの研究はプロトンのみの治療で、2.5Gyを週4回、トータルで26回照射して、65Gy、6週半というプランにしている。
臨床試験のパイロットスタディとして、頭頚部腫瘍に対して65Gyの固定照射を行っている。

倫理審査委員会で検討しているノンスモールセルの肺癌は、線量を徐々にあげていくという線量エスカレーションのスタディである。もう一つは肝癌に対して、これは線量固定でレスポンスをみるというフェイズIIスタディを組んでいる。
現状こういうことで、なんとか治験に必要な症例の確保ができそうである。
その終了がだいたい5月末あたりで、またそれから半年ということになるのだが、その間は臨床研究を進めていくということで先程の非小細胞肺癌と肝癌を行っていくというプランである。
(質問)プロトコールとして陽子線の治療は、ある程度の線が固まっていると思っていたが、かなり実験をしなければいけないという段階なのか。それとも、こういう手続きを踏まないと世の中に認められないというようにがんセンターは考えておられるのか。

(池田先生)
ひとつは、世の中に認められるためのステップというのが必要になると思う。それと、マシーン自身がそれだけの機能を有しているかどうかということを検証することも必要なので、このようなステップも必要だと思う。

ひとつは、医療としてのステップ、医療機器としてのステップを踏むためには、現行の法律上、治験をくぐらなければならない。
これは、むしろ装置のメーカーの方の方がよくご存じなのかもしれないが、承認されるまでに安全性に関し症例を半年間みるということが必要になってくる。

II 県立粒子線治療センター(仮称)の建物設計について

 すでにご紹介したように照射治療棟の建設は着々と進んでいます。そこで今回は設計を担当していただいている(株)日建設計の鳥巣設計室長に粒子線治療センターの設計コンセプトについてレポートしてもらいます。

1はじめに
近頃では建築、特に公共建築は「箱もの」などと呼ばれ、中身のない殻のようなイメージで捉えられているようです。
もし、そのようなものであれば、自由に設計できて建築家にとってはある意味で喜ばしいものと言えます。しかし彫刻と異なり、建築は古来より目的を持った空間を作るための構築物です。どんな建物でも始めに用途があり、用途に合わせて設計されるものです。「仏」を造ってから「魂」を入れるのではなく、「魂」があってそれに合わせて「仏」を造るのが本来です。(勿論、貸しビルやマンションのように「魂=使用者」が限定されていないものもありますし、時代と共に「魂=使用者や用途」が変化していくことを考えておくことも重要です。)
 つまり、施設が出来てしまえば、形に表れる建物で施設を判断しがちですが、施設の計画において建築の設計の果たす役割りは、ごく一部に過ぎないということです。
この施設は日本はもとより世界でも例のあまりない施設です。放射線医学研究所の HIMACや筑波大学の陽子線治療施設は本来研究施設でありますし、国立がんセンターの陽子線治療施設は既設の東病院に増設された施設で、すべて国の施設です。しかし、この施設は兵庫県という地方自治体が粒子線治療を実用的に新立地で行うものです。したがって、相当の長い期間どのような施設にするのかという検討に時間を費やしてこられ、現在も細部の運用についてはまだ検討が行われている状態です。

2建物設計経緯
 平成6年度には、施設の性格付けがほぼ決まり、照射治療装置の大まかな仕様、予算規模、開設時期などが決まりましたので、照射治療装置メーカー決定のため平成6年末に照射治療装置の基本設計プロポーザルが行われました。平成7年度から建屋の基本設計・実施設計が行われる予定でしたが、「阪神淡路大震災」のため、建屋の設計は1年遅れて平成8年度に委託発注を受けた次第です。
 平成8年度に、照射治療棟と病院棟を合わせた施設全体の建屋基本設計と照射治療棟の建屋実施設計を終了し、平成9年度には照射治療棟の建屋工事が発注され、10月10日着工のための安全祈願祭が執り行われました。
その後工事は順調に進捗し、平成10年度末現在では躯体工事が完了し、平成11年7月末の竣工に向け仕上げ工事が進められています。建屋竣工後引続き照射治療装置を据付け、年末頃から一部調整試運転に入る予定です。
 一方、病院棟は平成10年度に建屋の実施設計を終え、平成11年秋に着工し、平成13年度の開設に合わせる予定となっています。

3建物の設計にあたって
 最初に書きましたように、建築設計者にとって施設の内容、つまり設計条件が定まっていることが必要ですが、さりとて建築的に見て合わない条件でも問題があります。したがって、施設計画や装置計画においても建築計画的な視点で検討しておくことが求められます。このために、まず施設計画・建築計画の基本理念を定めることとしました。この基本理念を考える上で考慮すべき点として、

・この施設が粒子線治療というQOL(Quality Of Life:生活の質)の高い高度医療を提供する施設であること
・「人と自然と科学とが調和する高次元機能都市」を目指す播磨科学公園都市に建設されること

の2点を原点とし、以下の3つの設計理念を作りました。
  ・患者のアメニティを考えた施設づくり
・周辺環境に調和した施設づくり
・医療効率にも配慮した施設づくり

 つまり、QOLの高い高度医療施設に相応しく、入院治療においても快適に過ごせる施設づくりと、市街地にはない周辺の豊かな自然環境に調和した施設づくりを目指しつつ、他方では実用施設としての経済性や医療効率にも配慮した施設を目指すこととしました。
この基本理念に基づき建物の設計方針を以下のように立てました。

まず、
建物の設計にあたって市街地では得られない豊かな自然とゆとりある敷地環境を生かした郊外型施設計画とすることを考え、 照射室をはじめ、病棟・診察室・検査室など患者の動線となる諸室をすべて1階に配置し外部や中庭の緑に開放されたプランニングとして、患者に安らぎとくつろぎを与える設計とする。
・そのため、建物を照射治療棟・病院棟・病棟の3つに分け、それぞれを機能的に結ぶ配置とし建物間は中庭とすることにしました。

放射線安全管理上は放射線を発生する装置は地下に設置するのが望ましいのですが、地下の照射室は患者にむしろ緊張を与えることになり好ましいものではありません。大きく重い装置は1階に設置した方が経済的であり、保守性も高いものとなります。ただし、放射線遮蔽ためのコンクリート壁も厚くなり、装置を収容している治療棟は、地上に大きく聳えることになりました。
そこで、治療棟はボリュームが大きいので敷地の奥に配置し、病棟は南に配置して周辺景観との調和を図ることにしました。
 幸い敷地のこの部分は地盤が岩盤で、精密な治療装置を設置する重い照射治療棟に適していました。また、背後に山が迫っていて、背の高い治療棟が目立ち難い背景がありました。

このようなゆったりとした施設配置により

・病棟は平屋の別棟で、開放的で個室性の高い病室プランにより、治療の場から独立した、住居性の高い快適な生活の場とすることが可能となりました。

 分散配置された施設を有機的に結ぶため、
中央機能のある病院棟は、治療棟と病棟の中間に配置し、2階を医師や管理部門のスタッフゾーンとして患者動線より分離する。
・病院棟1階は3つのウィングを持ち、診察ゾーン、放射線技師・治療計画ゾーン、食堂・サービスゾーンにゾーニングし、中央にエントランス・受付・薬局を配置する。
・治療棟は、治療部門と運転部門に分離し患者のプライバシーに配慮するとともに、治療ホールは中庭に面した開放感のあるものとして患者の緊張を和らげるよう配慮する。
・食堂が患者やスタッフの交流の場となるよう、動線の交点となる施設の中央に配置する。
 などの配慮を行いました。

以下にこの施設の配置構成を模式的に示します。
施設の配置構成
  これらの施設計画は単に建物計画だけではなく、施設のあり方や運用、また照射装置の設計とも深く関わる問題で、県の主務課や整備委員会、営繕課・設備課、装置設計者など多くの関係者の協議の中で、次第に方向付けられていったものです。
特に照射治療棟は、複雑で大掛かりな装置の容器としての性格が強いので、装置設計者との密接な調整が必要とされたところです。

4建物の意匠デザインについて
 建物の意匠デザインは先に述べたとおり、施設の第一印象を作りがちです。そのため、施設内容に相応しいものとするよう以下の点に配慮しました。
・意匠デザインは、患者に安らぎを与え、周辺環境と調和するハイタッチなイメージと、高度医療施設に相応しいモダンで清潔感のあるイメージを兼ね備えたものとする。
・風合い豊かな材料とそれの持つ自然色を基調とした外装とした。
・屋根は、低層の郊外型施設に相応しい庇のある勾配屋根とし、銀鼠の自然色の金属屋根として軽快感のあるモダンな表現とした。
・外壁は、明るく淡い色調の小振りのタイル張りで、割肌として陶土の持つ自然色の風合いを出している。
・窓もできるだけ大きく取り、開放感を出すよう配慮する。
・内装は無機質になりがちであるが、機能性や清潔感を損なわない範囲で、床をタイルカーペットや木目調やクロス調とし、くつろぎのあるデザインとする。
・廊下などの照明は、やわらかい間接照明を主に考える。

What’s new

 ドイツのダルムスタット市のGSIで、炭素線の治療が始まる。
 報告1)によれば、1997年12月に最初の2例の治療(頭頸部がん)が行われ、腫瘍も消失し順調とのことである。これで、GSIは世界で3番目の重イオンの治療を行う施設となった。(1番:ローレンス・バークレイ、2番:放医研)
今後5年間で、数百例の臨床研究を行い、炭素線治療の有効性を確認することになっている。
この施設の特徴は、腫瘍にあう照射野を3次元的に作成するスキャン法と、治療中に照射野を確認するPET撮影を行うことである。治療時間は、患者の治療室入室から退出まで約30分で、連続20日間の治療を標準としている。
また、患者負担は、40,000マルク(約280万円)で、ローンによる支払いなども考慮している。
炭素を選択した理由は、生物的効果と物理的効果が優れていることによるもので、今後、世界各地の粒子線治療センターとの連携を行っていくとのことである。
 この施設の医療側の責任者は、このニュースレター2号で照会した、ハイデルベルグ大学のがんセンターのデーブス博士である。

1)GSI treats cancer tumors with carbon ions. Cern Courier 38(9):14-17,1998
(文責 菱川)




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県立粒子線医療センター院長 菱川 良夫

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