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兵庫県立粒子線医療センター

ニュースレター No.13 竣工記念号
April 2001



CONTENTS

■□ 粒子線医療センターの目指すもの

■□ 粒子線医療センター竣工

■□ センター竣工に寄せて

■□ 臨床試験(治験)の実施予定

■□ 病棟のコンセプト  ”個(プライバシー)の尊重” と ”集い憩う場”

■□ 粒子線治療装置いよいよ稼動

■□ 資料:放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療臨床試行状況

■□ 見学者の状況



兵庫県粒子線医療センターの目指すもの

名誉院長 阿 部 光 幸

 平成9年から建設が始まった兵庫県立粒子線医療センターは、いよいよスタートに向けて最終段階に入った。この粒子線医療センターの基本理念については、これまでいろいろな研究会やマスメディアを通して明らかにしてきたつもりであるが、この機会に改めて当センターは何を目指すのかということについて、私の考えを述べたい。
第一の目標は「がんの治癒率を改善するとともに、がん患者の社会復帰を目指す」ということである。この目標を掲げる理由は以下のことからである。

今日がんの治癒率は医学の進歩により全体で約50%に達するようになった。このためがん治療は治癒率だけでなく治癒の質が問われる時代に入ったのである。すなわち、がん治療は単に“治せば良い”というのではなく、“いかに機能と外見を損なわず治すか”ということが重要な課題になった。私ども放射線治療医は、この問題に最もよくこたえられるようにならなくてはならない。なぜなら、放射線治療は切らずにがんを治すところに最大の特徴があり、またそこに存在の意義があるからである。

ところで、現在放射線治療で広く使われているX線やγ線には二つの大きな問題点がある。その第一は病巣に対する放射線の集中性悪いことである。このため病巣の近傍に放射線感受性の高い重要臓器が存在する場合、その被曝避けられないので、副作用が制約因子となって十分な線量を照射することができない。第二は、上記の放射線は電離密度の低い、換言すれば生物効果の低い放射線に属することである。このため、がんの種類や大きさによっては治癒に導くことができない場合がある。これに対して、当センターで行う炭素線、陽子線は従来の放射線と比較して格段に病巣に対する集中性が優れているので、周囲の正常組織に対する障害を著しく軽減できる。さらに炭素線は電離密度が高く、X線、γ線、陽子線と比較して約3倍近くの殺細胞効果がある。従って、これまでの放射線治療では治癒に導けないような、いわゆる放射線抵抗性のがんに対しても威力を発揮するのもと期待される。

 以上のことから、放射線の正確な照準が困難な胃や大腸などの消化器がんを除き、転移のない比較的早期のがんであれば、放射線による副作用を軽減し、切らずに治癒に導くことが可能と推定される。また、高齢のがん患者の場合は、苦痛の少ない生き甲斐のある人生を送ってもらうことができると考えられる。粒子線治療の目指すものとしてがん患者の社会復帰を掲げた最大の理由はここにある。
いま述べてきたことから明らかなように、粒子線治療の適応は比較的早期の原発性がん、特に頭頸部、肺、肝、前立腺、骨・軟部組織の悪性腫瘍が良い適応であり、進行癌に対して姑息的治療のために用いるべきものではない。
次に、当センターの目指す第二の目標は「SPring−8と連携し、放射光による新しい診断技術を治療計画に組み込んだ高精度粒子線治療を実現する」ということである。当センターの他の施設にはない大きな特徴は、当センターから約1.5km離れたところに世界最大の大型放射光施設SPring−8があることである。この放射光は診断用X線の一億倍以上の輝度があり、極めて平行性の高い放射線であることから、屈折画像を撮ることができる。このため、従来の放射線診断では得られないがんの微細構造をより鮮明に描出できる可能性がある。
 平成10年12月にSPring−8医学利用研究会が発足し、現在全国の大学や研究所から研究者が参加して放射光医学利用のための基礎研究が行われている。主にがんの微細構造の画像化、心臓やがんの微小血管の病態生理に関する研究が進行中で、そのデータに基づき、近い将来臨床応用に最適なビームラインが作られることになっている。これが完成すれば、がん病巣の進展範囲がより正確に診断できるので、放射線による正常臓器組織の障害を最低限にとどめ、しかも高い腫瘍制御率を得ることができるようになると考えられる。この放射光による診断と粒子線治療を一つのシステムとして構築し、極めて高精度の粒子線治療を実現するという試みは国際的にみても兵庫県が初めてであり、その成果を世界に向けて発信できるようになることを心から願うものである。



粒子線医療センター竣工

県立病院局経営課室長(県立粒子線医療センター推進担当)
加 藤 充 久

1 はじめの一歩
平成13年4月、県立粒子線医療センターが開所し、治療装置にかかる臨床試験が開始される。

施設設備については、平成4年度に学識者を含めた「粒子線治療推進検討委員会」設置以来、9年を要し、はじめの一歩を踏み出すことになった。

この間、阪神・淡路大震災に見舞われたが、プロジェクトは着々と推進されてきた。

県立粒子線医療センターは、県民の生活の質を守るがん治療の実施という大きな期待を担い、臨床への一歩を踏み出した。

2 状況の変化
粒子線治療を取り巻く状況は検討開始時と大きく変化し、臨床治療へ向けた動きが急となっている。
放射線医学総合研究所(文部科学省)では、臨床試行(炭素線)により800例を越える症例が積み重ねられ、安全性の認識を経て、適応部位、照射回数など、研究の成果が明らかとなってきている。
また、国立がんセンター東病院の陽子線装置は、平成13年2月、薬事法に基づく医療用具製造承認を受け、近く高度先進医療申請が行われると聞いている。

先進施設の成果を踏まえるとともに、これら施設と連携して医療を提供していく。

3 病院らしくない病院
 「がん患者の社会的復帰を容易にする」という施設コンセプトに沿い、「リゾート施設的な雰囲気を持った病院を整備してほしい」という臨床治療部会委員の意見もいただき、個室を多くとり(個室14室、4床室9室)、4床室も廊下側ベッドには窓を配し、庭が楽しめるようにしている。患者動線は1階のみの平面で完結するようにしており、食事は、人工池に面した明るい大きな食堂でとってもらう。
これらにより、小規模ではあるがアメニティに配慮した医療施設が実現できた。

正面玄関ロビー
正面玄関ロビー
(右奥は陶板「天の川幻想」(芳野俊通氏作))

4 ホール陶板
 ホールの陶板は、地元新宮町で活躍されている陶芸家の芳野俊通氏(新宮焼)に製作をお願いすることになった。「生きる喜びにつながり、生命の息吹を感じさせる」とのコンセプトで、宇宙から見た地球、海、河、水、また、宇宙に浮かぶ無数の星などをイメージし「天の川幻想」と題して、製作していただいた。
世界的な施設と地域の係わりを図る試みの一つとなったが、今後、患者と地域の交流ということも課題である。

5 今後の取組み
1)臨床試験
粒子線治療装置について、メーカーは薬事法に基づく製造承認を取得することが必要となったため、平成13年度は臨床試験から開始することとなった。
陽子線についての臨床試験及び申請を先行させ、平成15年度からの一般治療開始を目指す。
 日本で初申請となる炭素線は、陽子線に引き続いて治験を実施し、陽子線装置の一部変更(粒子の追加)として申請する方針である。
今後、厚生労働省の製造承認審査、更に患者負担軽減のため、高度先進医療への申請などを行っていく。
2)医療機関との連携
粒子線医療センターは50床を有する放射線単科病院であり、がん治療に対する総合的な機能を有する大学附属病院、兵庫県立成人病センター等の各地の病院と連携を図り、患者紹介を受けていく。このため、治療ガイドラインや紹介フォーマットの作成などを行い、ネットワークづくりを図る。

3)広報
粒子線治療の成果を広く、わかりやすく紹介し、一人でも多くのがん患者に受療してもらえるように広報を行っていく。

 最後に、木村修治兵庫県立成人病センター名誉院長、平尾泰男兵庫県参与などを多くの医学、物理学関係者の指導に感謝申し上げる。

参 考 ・ 経 緯

平成2年度〜3年度 ・兵庫県立成人病センターで「陽子線治療施設に関する調査」実施
平成4年度 ・粒子線治療推進検討委員会(委員長 木村兵庫県立成人病センター名誉院長)が設置される。
・海外の先進施設(ハーバード大学、ローレンス・バークレー研究所、ロマリンダ大学)を視察し、委員会報告書の中で積極的な取り組みへの期待が表明される。
平成5年度 粒子線治療推進検討委員会に専門部会(物理分科会、治療分科会等)を設置。兵庫県で粒子線治療を行う場合の施設規模等基本的枠組みを検討し、構想案を取りまとめる。
平成6年度 事業主体を兵庫県とし、粒子線治療装置について国際技術コンペを実施。コンペ当選者を三菱電機鰍ニ決定。
・平成7年1月阪神・淡路大震災が発生。

(放射線医学総合研究所で臨床試行開始)
平成7年度 ・装置基本設計の実施。
(国立がんセンター東病院に陽子線装置の導入が決定される)
平成8年度

・装置詳細設計を行い、製作に着手。照射治療棟の基本・実施設計。
・粒子線治療施設が科学技術庁(現文部科学省)の国庫補助事業として採択される。

平成9年度

・平成9年8月「粒子線治療の現状と将来展望」をテーマに国際シンポジウムを開催。
・病院棟開設許可の取得(平成9年8月)。
・装置製作本格化。照射治療棟の入札を実施。

平成10年度 粒子線治療センター整備委員会(名称を変更)委員長に阿部 兵庫県立成人病センター総長が就任。
・病院棟の実施設計に着手。

・放射線技師の配置(放射線医学総合研究所、国立がんセンター東病院での研修)

・医師の全国公募の実施。

・放射線安全管理について科学技術庁顧問会議にはかられる。
平成11年度

兵庫県立病院局への組織移管。
・厚生省(現厚生労働省)が、装置メーカーに対し、薬事法に基づく製造承認申請を行うよう指導。
このため、臨床試験の実施が必要となる。
・照射治療棟竣工(平成11年7月)。装置の据付調整の開始。

(平成11年9月 国立がんセンター東病院陽子線装置製造承認申請)

平成12年度 厚生省(現厚生労働省)より、臨床試験の症例数を陽子線30例、炭素線30例とするよう指示。
・病院棟竣工(平成12年12月)



センター竣工に寄せて

(株)日建設計・大阪 設計主管
青 木 一 元

 兵庫県立粒子線医療センタ−が晴れて竣工の運びとなりました。心からお慶び申し上げます。顧みますと、当社は今から5年前の平成8年に、施設全体の基本設計の委託発注を受けました。豊かな自然に恵まれた「播磨科学公園都市」に、粒子線治療という日本はもとより世界でも有数の最先端の医療施設を設計させていただく機会をいただいて、治療内容にふさわしい従来の病院にないような素晴らしい施設を設計しようとスタッフ一同張り切って設計に着手したことを、昨日のことのように思い出されます。

 その後、1期工事(照射治療棟)は実施設計を経て平成9年に工事着工、平成11年に竣工しました。竣工後は、照射治療装置の据付・調整に入り、並行して2期工事(病院棟)の実施設計・工事に入り、平成12年末に無事竣工の運びとなりました。
設計に当りましては、「患者のアメニティへの配慮」「周辺環境との調和」「医療効率への配慮」の3つを基本理念に、特に次の事項に配慮して設計しました。

■立地の特性を最大限生かし、患者の利用する室はすべて1階にゆったりと伸びやかに配置することで、自然の緑・光・風を積極的に取り入れて、天候や季節の移り変わりを直に肌で感じるように配慮しました。

■外観は勾配屋根とア−スカラ−の割肌タイルを基調に落ち着きと安らぎのあるものとし、周辺はできるだけ緑化するよう努めました。また、散策の小径や池・東屋などを設け、治療のあいた時間に散歩などの気分転換ができる環境づくりに心掛けました。

■患者が大半の時間を過ごす病室には、個室だけでなく4床室にもトイレやそれぞれのベッドから外が見える専用の窓を設けました。また、入院生活が家庭の延長として違和感なく送れるよう、木を主体に暖かみのあるの内装とし、医療設備など従来の病室らしさを感じさせない工夫に配慮しました。

 過去に例を見ない施設で、病院局様をはじめとする関係者の皆様方のこれまでのご苦労は想像に絶えません。高齢化社会に突入した今、がん患者の社会復帰という時代の要請に応える施設として発展されんことを心から願っています。

ヤマザクラの株立てがあるエントランス 散策の小みちと東屋
ヤマザクラの株立てがあるエントランス 散策の小みちと東屋
病棟とその南側に広がる庭園 それぞれのベッドに専用の窓がある4床室
病棟とその南側に広がる庭園 それぞれのベッドに専用の窓がある4床室


臨床試験(治験)の実施予定

県立粒子線医療センター院長兼医療部長・研究科長
菱 川 良 夫

兵庫県立粒子線医療センターでは、「粒子線治療装置」が設置され、治療が行われることになっている。この「粒子線治療装置」は、三菱電機株式会社により新しく開発された医療用具であるため、実際の医療の場に提供される前に、その安全性や有効性が厳しく吟味されるべきものである。そのため、平成13年4月に開院する兵庫県立粒子線医療センターでは、がんの患者さんに対する臨床試験(以下、治験)を5月から行うことになった。

治験は、治験依頼者(三菱電機株式会社)と医療機関(兵庫県立粒子線医療センター)の間で文書による契約で行われる。その時に、治験依頼者から医療機関に提供される書類は、ア)治験の依頼を申請する書類 イ)治験用具の概要書 ウ)治験実施計画書 エ)被験者の同意を得るに際しての説明文書 オ)その他 である。

この様な書類が、治験依頼者から医療機関に提出された後、医療機関内の設置された治験審査委員会(IRB:Institutional Review Board)で治験の実施についての審議が行われる。審議結果は、意見として医療機関の長に提出され、了承が得られれば、契約が結ばれる。

本装置は、薬事法施行令によれば、分類名、「器具機械83医療物質生成器」、一般名、「その他治療用粒子加速装置」となる。また、医療用具のクラス分類では、クラスIIの新医療用具となる。そのため、治験終了後も、再審査申請を行うまでの間、毎年調査報告が義務づけられている。

医療用具の治験は、厚生省(現、厚生労働省)が定めた「医療用具の臨床試験の実施に関する基準(医療用具GCP)」によって行われなければならない。GCPとは、Good Clinical Practiceの略であり、倫理的かつ科学的に臨床試験の実施をすみやかに行えるようにする基準である。治験は、一種の人体を借りた試験であることから、治験における被験者の人権擁護のためには、科学的、倫理的に十分な対応と配慮が必要となる(世界医師会:ヘルシンキ宣言(1964年)、日本学術会議勧告(1972年))。医療用具GCPでも、このことが特に強調されている。

医薬品の治験を行う場合は、段階的に第I 相、第II相、第II相と行われる。本装置は、対象ががん患者であり、第I /II相として、安全性と有効性について検討されるが、特に有効性については、前述した調査報告を市販後調査として行うことで、その成果を示すイ必要がある。

治験は、治験依頼者の作成する治験実施計画書により実施される。その詳細は、治験依頼者が、届け出を4月に行ってから明らかになるが、現在の時点でわかる範囲を下記に記載し、各医療機関の協力を得たいと考える。

本装置は、粒子線治療装置で、陽子線治療と炭素線治療が可能である。まず、治験依頼者は、陽子線治療装置としての治験計画届を行い、陽子線治療の治験を医療機関で行う。予想される症例数は30例で、頭頸部、肺、肝、前立腺の各部を行うことで、全身のどこでも陽子線治療が安全に行われることを明らかにする。期間は、平成13年5月から約半年である。対象は、PS 0-2の全身状態の良好な遠隔転移のない症例になりそうである。治験終了後、すみやかに粒子線装置(陽子線治療のみ)としての医療用具製造申請を行い審査・承認を待つことになる。

一方、炭素線治療の治験は、平成13年秋に届けを出して行う予定となっている。予定されている治験の部位や症例数は、陽子線治療と同様になりそうであるが、特に有効とされる骨軟部も加えられそうである。炭素線治療に関しては、陽子線治療装置としての承認後に申請をすることになりそうである。

通常の治験は、その治験の対象症例を集積している医療機関に、治験依頼者が依頼する。今回の場合、粒子線治験装置を設置した県立粒子線医療センターは、治験と同時に開院し、治験を目的に医療が開始される。平成13年度に治験ができることになったことは、21世紀の新しい医療の一つになるであろうと考えられる粒子線治療の実現への大きな一歩となる。



病棟のコンセプト  ”個(プライバシー)の尊重” と ”集い憩う場”

県立粒子線医療センター医療部 看護科長
目 尾 博 子

 周囲四方を緑の山々に囲まれた西播磨の自然豊かな中、治療棟についで病院棟がいよいよ完成しました。
 病棟は、外来や治療の棟とは池をはさんで建つ平屋で、少々病棟らしくない建物です。自立した日常生活が出来る患者さんが多く、入院期間1〜2ヶ月と比較的長期に及ぶため、特に居住性に重点をおいた温もりのある場となっています。
特室4室、1床室10室、4床室9室の50床で個室の割合を多くし、4床室もベッドが隣接しない個室感覚で、全てのベッドから緑が見えます。

 快適な入院生活を過ごすには“個(プライバシー)の尊重”と“集い憩う場”が必要です。“個”の代表である病室につては、前回ニュースレターで〜温もりのある空間〜として紹介しましたので、今回は“集い憩う場”を紹介します。

★食 堂

 病棟とは別棟で、庭の木々と池を見渡せるガラス張りの広々とした空間です。退屈な?入院生活にとっての楽しみの1つは食事です。と同時に患者さんからの不満の声も多くきかれます。真心込めてつくられた料理も、食欲のない患者さんにとっては残飯に化す悲しい現状もあります。街のレストランへ出かける時のように、うきうきした気分で、しゃれた上着をはおり、背筋を少しのばて食堂へでかける、そんな楽しい食事にしたいものです。

★和室もあるデイルーム

 家族や見舞客との団らん、同じ治療に励む患者さん同士の語らいの中に、医療従事者からのみでは得られない慰めや闘病への意欲が湧いてきます。豊かな時が流れる、そんな空間です。時には姿勢をただしお茶を頂く、時には行儀悪くゴロリと横になれる畳の間のあります。
健康教室のみでなく、ロビーコンサートを始め、囲碁・将棋・茶道・生け花・園芸等趣味の会も開きたいと思っています。

 ナースステーションは低いカウンターで仕切られただけのオープンな場所です。忙しく生きてきた人が、突然がんを宣告され粒子線治療を受けることになった。そんな患者さんにとって入院生活が、少し立ち止まって自己の健康を見つめ、これからも前向きに過ごせるための機会となるよう、患者さんや家族と共にある、24時間開かれた場所でありたいと思っています。
地域の方々との交流を深め、音楽、園芸、その他いろいろなボランティアの参加を得、入院生活が少しでも豊かに過ごせるようにと願っています。

病室 デイルーム
病 室 デイルーム


粒子線治療装置いよいよ稼動

県立粒子線医療センター医療部 装置管理科長
板 野 明 史

 兵庫県では、陽子線及び炭素線を用いてがんの放射線治療を行う粒子線がん治療装置の建設を平成8年度から進めてきました。この装置を設置する県立粒子線医療センターは兵庫県揖保郡新宮町に位置し、隣接する大型放射光施設SPring-8とともに播磨科学公園都市の中核的加速器施設でもあります。陽子線及び炭素線両方のビームを用いる粒子線治療施設という点でも世界初の試みです。

 陽子線、炭素線には従来の放射線治療に用いられているX線と比較して患部への線量集中性が格段に優れていると言う荷電粒子線としての特徴があります。この特性を利用して粒子線をがん細胞に照射して縮小・消滅させるとともに、周囲の正常組織への障害を抑えてQOLの高いがんの放射線治療を行います。

表1 治療に要求される性能仕様とビーム諸元
ビーム粒子 陽子、ヘリウム、炭素
ビームエネルギー p 、He : 70〜230MeV/u
C :70〜320MeV/u
ビーム強度 p : 2.9×E10pps
He : 7.2×E9pps
C : 4.8×E8pps
線量率 2Gy/分
体内ビーム飛程 p : 40〜300mm
He : 40〜300mm
C : 13〜200mm
照射野サイズ 15cm×15cm 大照射野
10cmφ 小照射野
15cmφ ガントリー
照射室 水平・垂直共通 1室
斜め45度 1室
水平(小照射野) 1室
回転ガントリー 2室
物理・生物汎用照射 1室

 この粒子線治療に要求される装置の基本性能仕様を表1にまとめます。ビームエネルギーは、体内深部にあるがんにも照射出来るように粒子線の体内飛程が20〜30cm取れるように決定されました。粒子線治療は数週間にわたってほぼ毎日患者に照射治療を行って行きます。照射中は患者にじっとしていただくことになるので、一回の照射時間が高々数分程度に納まるようにビーム強度を決めています。照射野サイズは、大部分のがんの大きさに対応できるように選定してあります。がんに線量を集中させつつその周囲の正常組織への放射線の影響を軽減・分散するために、いくつかの方向からに分けて照射する他門照射を行います。また重要臓器を避けて照射しようとすると照射方向が制限されることがあります。このような要求に応えるために、水平、垂直、斜め45度の方向から照射可能な固定照射室を用意しています。特に陽子線については、任意の方向から照射可能な回転ガントリー照射室が2室用意されています。

 図1に、がん治療装置の全体配置図を示します。粒子線の元となるイオンビームを作り出すECRイオン源、粒子線を5MeV/u(光速の約10%)まで加速する線型加速器、直径約30mの円形加速器であるシンクロトロン(図2)が配置されています。シンクロトロンは体内飛程の要求に応じて加速エネルギーを変化させることが出来ます。炭素の最大加速エネルギー320MeV/uでは、光速の約67%の速さになります。シンクロトロンから取出した粒子線を輸送し各照射室に分配する高エネルギービーム輸送系がその後ろに並びます。

 図3、4には各照射室の写真を示します。患者ベッド、技師がベッド位置を移動させるのに用いるペンダント、位置決め用のX線装置(II管、イメージ・インテンシファイアー)が見えます。

 平成11年3月から装置の搬入・据付工事を開始し、7月に照射治療棟が竣工するとともに装置の運転・調整試験を本格的に始めました。

 平成11年12月からは、線型加速器のビーム調整を開始しました。平成12年3月からはシンクロトロンのビーム調整を開始し、約2ヶ月間ですべての粒子線に対して要求ビーム強度を達成しました。科学技術庁による放射線管理区域の入退室安全管理や放射線遮蔽能力に関する施設検査・安全検査も無事終了し合格証の発行を待って、加速器を本格稼動させ、照射室内の機器の本格調整を開始しました。それと平行して細胞・動物照射実験を行い、粒子線の生物学的効果を測定して治療のための基礎データの取得に努めました。現在は装置性能の向上・安定化を目指して運転を続けるとともに、医療スタッフから見た使い勝手を改善するために照射制御系の改良試験を続行し、5月に予定されている治験開始に備えています。

図1 粒子線がん治療装置 図2 シンクロトロン加速器
図1 粒子線がん治療装置 図2 シンクロトロン加速器
図3 45度照射室 図4 回転ガントリー照射室
図3 45度照射室 図4 回転ガントリー照射室


資料:放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療臨床試行状況

 放射線医学総合研究所では、平成6年6月から「重粒子線がん治療臨床試行」を開始し、平成12年8月までの6年3ヶ月の間に829例の患者さんの登録がされました。これまでに登録された829例(850腫瘍)のプロトコール別・照射期間別患者は次表のとおりです。

重粒子線治療患者数(平成6年6月〜平成12年8月)

(単位:名)

部 位 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期 第6期 第7期 第8期 第9期 第10期 第11期 第12期 第13期 合 計
頭頚部 3 4 5 5                   17
中枢神経   6 4 4 1 9 4 2 2 7 3 4 8 54
肺腫瘍   6 7 4 11+1 16 4 2 4         54+11
舌 癌   2                        2
肝細胞癌     5 7 6 7+1               25+11
前立腺癌     2 7 8 10 5 3           35
子宮頚癌     3 6 3 10 5 4           31
総合研究     8 16 7 9+1 15 15 8 9+2 16+1 16+2 6+1 125+7
骨・軟部         2 7 6 7+1 10+2 9+4 9 9   59+7
食道術前           1 2 3 1         7
食道根治             3 8 1 2        14
頭頚部II         8 11               19
頭蓋底             3 3 1 3   2 2 14
頭頚部III             17 14 10+1 12 15 23 10 101+1
肝細胞癌II             7 12 15 10+2 9+1 8 7 68+3
肺腫瘍II                11 11 13       35
子宮頚癌II                2 3 2 6 2   15
前立腺癌II                2 16 14 9 21   62
子宮腺癌                  2 3 1 2 1 9
肺  II                      2 4 1 7
肺  IV                      12 15+1 15 42+1
骨・軟部II                          10 10
子宮頚癌II                          5 5
肺  IV                          5 5
前立腺癌II                          11 11
食道術前                          1 1
膵 癌                          2 2
合 計 3 18 34 49 46+1 80+2 71 88+1 84+3 84+8 82+2 106+3 84+1 829+21

<注:+は同一患者の2病巣治療。従って総治療数は「850」>

第1期 平成6年6月〜8月 第2期 平成6年9月〜平成7年2月
第3期 平成7年4月〜8月 第4期 平成7年9月〜平成8年2月
第5期 平成8年4月〜8月 第6期 平成8年9月〜平成9年2月
第7期 平成9年4月〜8月 第8期 平成9年9月〜平成10年2月
第9期 平成10年4月〜8月 第10期 平成10年9月〜平成11年2月
第11期 平成11年4月〜8月 第12期 平成11年9月〜平成12年2月
第13期 平成12年4月〜8月

(放医研ホームページより)



【見学の状況】
(平成12年4月〜平成13年2月末)

 平成12年4月から平成13年2月末までの施設見学者の内、把握している人数は1642名でした。
その内、主な見学者と内訳は以下のとおりです。
施設の竣工、そして臨床試験を間近に控えて、病院など、関係機関の見学も多くなってきています。皆様方には、今後とも連携等よろしくお願いいたします。

4月14日 C.Streffer 前エッセン大学教授夫妻 2名 11月11日 兵庫県立成人病センター 19名
5月20日 兵庫県立成人病センター 10名 11月21日 電源研究会 23名
5月26日 理化学研究所他 9名 12月 1日 新宮町商工会 15名
6月 6日 洲本商工会議所工業部会 30名 12月 2日 京都放射線技師会 8名
7月14日 ライナック研究会 200名 12月 6日 若狭湾エネルギーセンター 4名
7月18日 京都大学 74名 12月21日 新宮町商工会建設業部会 25名
7月26日 玉岡かおる氏他(TV取材) 5名 12月27日 兵庫県立姫路循環器病センター 2名
8月21・22日 サイエンスサマーセミナー(高校生) 617名 1月11日 相生市民病院 7名
9月20日 北海道経済連合会 5名 1月17日 相生商工会議所 8名
9月26日 新宮町商工会 30名 1月19日 姫路工業大学 4名
10月26日 西播町議会女性議員 30名 1月25日 国際医療技術交流財団 6名
10月31日 西播磨保健所放射線技師 8名 2月13日 西播町議会職員連絡協議会 35名
11月 6日 公明党青年議員団 20名 2月16日 京都府相楽郡保健所管内保健婦 4名
11月10日 兵庫県立3大学留学生 40名  2月27日 新宮町連合自治会  26名

兵庫県立粒子線医療センター