ニュースレター目次
I 県立粒子線治療センター(仮称)整備委員会開催‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
1.県立粒子線治療センター(仮称)の事業推進状況‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
(1) 照射治療装置製作
(2) 照射治療棟建設
2.放射線医学総合研究所の重粒子治療試行状況‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2
II 日本の新しい粒子線治療計画の紹介 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥6
○若狭湾エネルギー研究センターの陽子線治療研究計画‥‥‥‥‥‥‥‥‥6
1.加速器の概要
2.加速器の利用計画
3.陽子線照射によるがんの治療研究
4.整備スケジュール
5.年間症例数
学会参加報告‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥7
放射線医学総合研究所臨床研究所班会議出席印象記‥‥‥‥‥‥‥‥‥7
I 県立粒子線治療センター(仮称)整備委員会開催
- 県立粒子線治療センター(仮称)の整備にあたり、各方面の専門の方からご意見をいただくため、平成10年3月18日、「県立粒子線治療センター(仮称)整備委員会」が開催されました。
委員会では、貝原知事から開会のあいさつを行い、木村委員長(県立成人病センター名誉院長)進行のもと、県から事業の進捗状況等の説明、辻井委員(放射線医学総合研究所重粒子治療センター治療・診断部長)から「放射線医学総合研究所における重粒子線治療の臨床試行」についての報告などがありました。
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委員会であいさつする貝原知事 |
また、会議終了後は三菱電機鰍フ工場で製作している回転ガントリーの視察を行い、各委員から今後の取り組みに対する様々な提言や期待が述べられました。
今回のニュースレターでは、委員会報告の一部を紹介します。
県立粒子線治療センター(仮称)整備委員会委員
○阿部光幸(国立京都病院長)
- ○井上俊彦(大阪大学医学部教授)
- ○宇山親雄(国立循環器病センター研究所 放射線医学部長)
- ○木村修治(県立成人病センター名誉院長)
- ○行天良雄(医事評論家)
- ○小山秀夫(国立医療・病院管理研究所医療経済研究部長)
- ○末舛恵一(国立がんセンター名誉総長)
- ○辻井博彦(放医研重粒子治療センター治療・診断部長)
- ○寺澤倫孝(姫路工業大学工学部教授)
- ○中村尚司(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター教授)
- ○平尾泰男(放医研顧問)
- ○森田皓三(愛知県がんセンター病院長)
- ○井戸敏三(兵庫県副知事)
- ○津田貞之(公営企業管理者)
- ○後藤武(保健部長)
- ○河野通雄(県立成人病センター院長)
1
- 1 県立粒子線治療センター(仮称)の事業推進状況
粒子線治療センター(仮称)は、照射治療装置とこれを格納する照射治療棟及び50床の病床を有する病院棟で構成され、平成12年度末の完成を目指しています。
平成9年3月の照射治療装置の製作発注に引き続き、同年10月には照射治療棟の建設に着手するなど、事業はいよいよ本格化し徐々にその姿を見せつつあります。
- (1) 照射治療装置製作

現在、入射器系、主加速器系、HBT系、照射器系等の工場製作を進めているほか、回転ガントリーの組立試験等を行っている。
平成10年度末までに製作・機能チェックを終え、11年度に搬入・据付を行う予定。
- 製作仕様
【1】 ビーム種:陽子、炭素、ヘリウム(開発照射用)
【2】 ビームエネルギー
:陽子70〜230MeV/u(体内飛程30cm)
:炭素70〜320MeV/u(体内飛程20cm) 直径10mの回転ガントリー
【3】 照射室:6室 回転ガントリー2室、水平・垂直1室、 斜め45°1室、水平1室、開発照射1室
- (2) 照射治療棟建設

平成9年9月に一般競争入札を行い、大成建設・進藤組特別共同企業体に落札。10月10日井戸副知事出席のもと安全祈願祭を実施し、建設に着手した。
現在、掘削工事をほぼ完了し、基礎工事等を行っている。平成11年夏完成予定。
基礎工事実施中の照射治療棟
規模
RC4階 12,000u
(加速器室、加速器制御室、照射治療室、工作室、操作室等)
2
- 2 放射線医学総合研究所の重粒子治療試行状況
次に辻井博彦委員の報告要旨を紹介します。
- ○放医研で行っている炭素イオンの臨床試行の概略について、お話ししたい。最初に粒子線の違いであるが、兵庫県では陽子線と重粒子線を使われるが、それぞれ線量分布が良く、しかも重イオンの場合は、生物学的効果が高くなっている。
○粒子線治療では、細いビームを拡げて、腫瘍にあわせる。重イオンの場合、生物効果がX線に比べて、細胞に対する殺傷力が強いが、深さによって違う。このことは治療をする側にとっては、非常に有利になる。
○放医研では、臨床試行体制というのが、ほぼ定例化した。組織としては、ネットワーク会議が一番上にある。これは、お目付役でもあり、評価委員会でもあり、応援団でもある。この下に、計画部会があってここでプロトコールを作る。半年に1回、成績評価をするが、臨床試行全体に対する評価と、治療成績の評価を行う。放医研では、患者さんを受け入れると、必ず治療前のインフォームド・コンセントの資格審査を行い、それからはじめて治療となる。また、外部に完全に独立した形の倫理審査委員会がある。実際の試行に関しては臨床研究班、これも疾患によっていくつもの班が形成されているが、患者さんを集める主体になると考えている。
○放医研内部の患者さんの流れは、CTを撮ったり、固定具を作ったり、治療計画、全体討議というような一つの流れ作業になっているが、これとほぼ並行して倫理審査を患者さん毎に行う。
臨床試行に関する委員会だけで年間約60回ぐらい開いている勘定になる。
○プロトコールを毎年いくつかずつ作っているので、冊子にしてまとめており、最近は、これがかなりの部分はもう英文に翻訳化が終わっている。今までに作ったプロトコールも、もう既に目的を終わったものがいくつかある。
○また、案内書のたぐいを毎年リバーズという形で発行している。
○どこから患者さんが来るかと、実際に統計をとってみると、圧倒的に関東周辺が多い。これは、兵庫の場合も参考にしていただけるのではないかと思う。まず地元を一番大事にし、それがあって全国展開かなと改めて考えさせられた統計だと思う。
3
- ○簡単に、最初の三つの治療部位についてお話ししたい。頭頸部は最初の時点では、手術もできない、他の放射線治療も非常に治癒の見込みが少ないというものだけを対象にした。肺がんは肺野型のものを行ったが、これは手術ができない、心臓が悪い、肺が悪いとかいう人だけである。肝臓はやはり頭頸部と同じで、他の治療法が期待できないか、他の治療法を行ったけれども無効例を対象にした。
○プロトコールの線量の内容であるが、各疾患で一定の線量を数人やっては10%上げて、また上げてということを全ての疾患で行った。
○新しい治療法ということで予測しないような効果もあったが、特に、腺がんとか腺様嚢胞がんと悪性骨肉腫、骨軟部肉腫には、良さそうだ思っている。ただ、いわゆる扁平上皮がんといわれるものは、腺がん等ほどの治療結果ではないので、今後もう少し工夫の余地があると思われる。
○さて、正常組織の反応であるが、臨床試行は属性テストで徐々に線量を上げるので、どこかで必ず強い反応が出るはずである。ただ、我々としては、事前に察知して、そこにいく前に上限を決めたいと思っている。例えば皮膚の場合で、3度が一番強いが、15例発生したが、治療後の経過とともに全て治った。口腔粘膜、肺、これも同じである。食道がんの症例に、2例少し遷延する潰瘍が生じた。それ以外は概ね、うまく経過しているというように感じている。ここで大事な所見というのは、早期に強い反応があったものは、一般に後期にも強いが、より程度を強くするということはなさそうだということである。
○肺がんの場合、2方向からかけて、線量を徐々に上げていくと障害の程度は高くなるということがある。これを4方向からにすると、もっと高い線量をかけたにもかかわらず障害の程度は低くなるということである。照射のテクニックがやはり大事である。
○小さながんで肺野型のものは、今は、だいたい4方向からかけるというのがスタンダードである。
○肺がんの局所進行性のがんで、照射後、手術を行った。今まで5人こういった患者さんを診て、そのうち3人手術が行われたが、そのうち2人は比較的低い線量をあてたにもかかわらず、腫瘍細胞が認められなかった。それから1例は、腫瘍細胞は非常に弱った状態になっていた。将来的には、こういった患者さんは重イオンで単独で治すということになると思う。
○肝がんの腫瘍のサイズで見た奏功率は、大体80%〜75%である。局所制御では2例の再発があるが初期の1例は、今の技術だと再発しなかったのではないかと感じている。
○おそらく重イオンでは、肝がんの患者に対して使う場合は、プロトンなどに比べるとより短期間の治療で、かつより大きなものが重イオンのよい適応になるのではないかと思う。重イオン治療を行う前に、他の治療を行っていた患者さんが経過が長いということもあり、生存率は少し落ちる。しかし、重粒子線をやる前に何の治療も受けていない、重粒子線がはじめての治療だという肝がんの患者さんは、現在、生き延びているということである。
○また、骨軟部腫瘍の治療に我々は注目している。
○PETでメチオニンという薬剤を使って治療経過を見ると、治療後、取り込みがなくなり、
経過を見るのに非常に有用であるというふうに考えている。
○いろいろな疾患のなかで、これまで唯一、頭の脳腫瘍がうまくいっていなかった。脳組織というのは、重イオンに非常にRBEが高いとされているものであるから、委員会の中で線量アップを非常に慎重に行ってきた。最近線量アップできるようになった。線量と生存率と比べると、最初の患者さんは、明らかに線量が少なすぎたための再発だったというように我々は思っている。線量を上げれば、それなりの効果が出てきており、今後の臨床試行に非常に期待している。
4
- ○陽子線と重イオンの適応の違いは何かということであるが、深部臓器がんのデータに関しては、重イオンの方が陽子線よりもデータがあるので、将来、比較ということになれば、重イオンの方がある程度さっさとデータを作り、陽子線がどういう結果を出してくるのかを、逆にお手並み拝見したいと思っている。我々としては、重イオンを使って、できるだけ早い時期に、いい場所を見つけ出して、いいデータを出して、いつでも必要であれば比較できるような体制を整えるようと思っている。
○最後に、重イオンというのはいろんな生物学的な意味からも短期間の治療もできる。ただ消化管とか中枢神経などは別のことを考えなければならないかと考えている。始まって丸3年、4年に入ったわけであるが、それなりにいろいろなことがわかっているという状況である。
プロトコール |
第1期 |
2期 |
3期 |
4期 |
5期 |
6期 |
小計 |
7期 |
合計 |
頭頚部 |
3
|
4
|
5
|
5
|
-
|
-
|
(17)
|
-
|
17
|
中枢神経 |
-
|
6
|
4
|
4
|
1
|
9
|
(24)
|
4
|
28
|
肺 |
-
|
6
|
7
|
4
|
11+1
|
16
|
(44)
|
4
|
48+1
|
舌 |
-
|
2
|
-
|
-
|
-
|
-
|
(2)
|
-
|
2
|
肝 |
-
|
-
|
5
|
7
|
6
|
7+1
|
(25)
|
-
|
25+1
|
前立腺 |
-
|
-
|
2
|
7
|
8
|
10
|
(27)
|
5
|
32
|
子宮頸部 |
-
|
-
|
3
|
6
|
3
|
10
|
(22)
|
5
|
27
|
総合 |
-
|
-
|
8
|
16
|
7
|
9+1
|
(40)
|
15
|
55+1
|
骨軟部 |
-
|
-
|
-
|
-
|
2
|
7
|
(9)
|
6
|
15
|
消化管 |
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
1
|
(1)
|
2
|
3
|
食道根治 |
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
3
|
3
|
頭頚部II |
-
|
-
|
-
|
-
|
8
|
11
|
(19)
|
-
|
19
|
頭蓋底 |
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
3
|
3
|
頭頚部III |
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
17
|
17
|
肝II |
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
7
|
7
|
合 計 |
3
|
18
|
34
|
49
|
46+1
|
80+2
|
(230)
|
71
|
301+3
|
5
II 日本の新しい粒子線治療計画の紹介
- ○若狭湾エネルギー研究センターの陽子線治療研究計画
平成9年12月19日〜20日に、福井県敦賀市において、若狭湾エネルギー研究センター主催による「第2回 粒子線によるがん治療シンポジウム」が開催されました。
本シンポジウムでは、今後新しく粒子線治療を行うこととしているいくつかの団体から報告があったので、順次ニュースレターで紹介していきます。
今回は、若狭湾エネルギー研究センターの陽子線治療研究計画について紹介します。
若狭湾エネルギー研究センターは、原子力や放射線の利用を含むエネルギーの分野において、地域に根ざした研究及び交流の拠点として、平成6年9月に設立された。
1.加速器の概要
このセンターで使用する主な施設の一つとして、多目的利用のタンデム/シンクロトロン複合型加速器を福井県が建設中であり、平成10年度に据付、平成11年度より運転開始の予定である。
- 2.加速器の利用計画
粒子ビーム理工学研究、イオンバイオテクノロジー、及び陽子線照射によるがんの治療研究に使用する。
- 3.陽子線照射によるがんの治療研究
将来、地域に整備される治療専用施設に技術移転することを目的とし、比較的コンパクトな施設で陽子線照射によるがんの治療技術を開発する。
研究内容としては、医療物理研究とともにがん治療臨床研究を含む。
研究体制としては、地域の医療機関と共同し、主治医による患者の診断、入院は地域の医療機関で行い、研究センターは主治医の依頼による治療照射を分担する。
照射系としては、垂直、水平2方向固定ビーム系で治療を開始し、平行してコンパクトガントリーを開発して置き換えることを考えている。
- 4.整備スケジュール
加速器運転開始:平成11年度初期ーファントム照射、動物照射
臨床研究開始 :平成13年度初期(固定ビームライン使用)
- 5.年間症例数
目標 50人
6
-
━学会参加報告━
- 平成9年11月17日〜19日の2日間、「PTCOG27」が放射線医学総合研究所主催のもと、当研究所(千葉)とホテルフランクス(幕張)において開催された。
PTCOGは、Proton Therapy Cooperative Groupの略称で、1985年に粒子線治療について研究することを目として設置された、主として物理学者を中心とする科学者たちのグループである。
現在年2回の研究会が、北米で1回、その他世界各地で1回行われており、平成9年は、米国ボストンのマサチューセッツ総合病院で開催された。
PTCOGは、研究発表と討論並びに施設見学(今回は放射線医学総合研究所と国立がんセンター東病院の陽子線治療施設)を内容とし、当日は、兵庫県からも粒子線治療センターに関する発表を15分間行ったところ、ドイツやアメリカの先生からも質問があり、多くの人が兵庫県の施設に注目し関心を示していることがうかがわれた。
また、研究会では、発表や見学以外にも各関係者と交流する時間があり、昨年8月に開催した「兵庫粒子線治療国際シンポジウム'97」の演者として来県されたマサチューセッツ総合病院のマンゼンライダー先生や、イタリアのベリ先生などと親しく話をする機会を持てた。
現在、当会の中心は物理学者であるが、粒子線治療の成果が出てくるにつれ、医療関係者の参加が増えつつある。
平成10年は、春はロマリンダ大学、秋はドイツのGSIで開催される予定である。
━放射線医学総合研究所臨床研究班会議出席印象記━
放射線医学総合研究所は、世界で最初に炭素線による治療を開始した施設で、現在、炭素線のがん治療としての安全性の研究が行われている。このような研究は、内部だけでなく、外部の人も含めた客観的な評価が必要であることから、現在、放医研では、臨床研究班会議を設置し、各疾患ごとにプロトコールを作成し、治療の安全性について検討を続けている。
今回、次の全ての臨床研究班会議に出席した。
平成10年2月17日 |
骨・軟部腫瘍
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2月18日 |
肝腫瘍 |
2月19日 |
婦人科腫瘍 |
2月23日 |
中枢神経腫瘍 |
2月24日 |
消化管腫瘍 |
2月25日 |
肺腫瘍 |
2月26日 |
泌尿器腫瘍 |
3月 5日 |
頭頚部腫瘍 |
これらの会議の目的は、粒子線治療の安全性についての研究であり、現時点では、治療効果の評価はできないことになっている。
大部分の疾患で、照射可能な安全線量が確立しつつあり、また、疾患によっては、プロトコールが順次新しくなるなど安全かつ効果的な治療が行われるようになってきていることから、兵庫県では、これらの確立されるであろうプロトコールを利用し、医療としての粒子線治療を実施できると期待している。
治療の成果は、いずれ放医研から報告されることになっており、それまで内容について報告できないのが残念である。
各臨床研究班会議に出席し、いずれも出席者が熱心で、粒子線治療に対する期待が以前に増し大きくなってきており、粒子線治療は21世紀のがん治療法として、まさにふさわしいものであることを強く印象づけられた。
7
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