ニュースレター目次
「兵庫粒子線治療国際シンポジウム’97」開催報告 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
1.「筑波大学での陽子線治療の現状と将来計画」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
秋根 康之 (筑波大学陽子線医学利用研究センター長)
2.「国立がんセンターの陽子線治療プロジェクト」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3
荻野 尚 (国立がんセンター東病院放射線部医長)
3.「マサチューセッツ総合病院での陽子線治療:1973年からの
ハーバードサイクロトロン研究所の分割照射の経験とノースイースト
陽子線治療センターについて」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4
ジョンE.マンゼランライダー(ハーバード大学医学部準教授)
4.「放医研の重イオン治療体制の整備と初期成果」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥6
辻井 博彦(放射線医学総合研究所重粒子治療センター治療・診断部長)
5.「兵庫県粒子線治療センター(仮称)と大型放射光の医学への応用」‥‥‥8
菱川 良夫(兵庫県健康福祉部参事)
☆トピックニュース
兵庫県粒子線治療センター(仮称)着工! ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
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イタリアのTOPプロジェクト‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
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「兵庫粒子線治療国際シンポジウム'97」開催報告
- 平成9年8月23日、まちびらきをしたばかりの播磨科学公園都市の県立先端科学技術支援センターで、「兵庫粒子線治療国際シンポジウム'97」が開催されました。
当日は、午前中SPring-8の見学会を行い、午後から阿部光幸先生(国立京都病院長)の座長のもと、「粒子線治療の現状と将来展望」をテーマに、アメリカから1名、国内から4名の演者による講演が行われました。
参加者は、医療関係者を中心に北海道から九州まで300人を越え、会場は粒子線治療への熱気であふれました。
以下、講演内容の要旨を紹介します。
1.「筑波大学での陽子線治療の現状と将来計画」
秋根 康之(筑波大学陽子線医学利用研究センター長)
- ○がんの治療法で、手術が一番頻繁に用いられているのは、特に日本における現状である。化学療法も用いられているが、非常に限られた種類のがんにしか、現在のところ有効性は確立されていない。
○手術は基本的にはがんの周りの正常組織を一緒に切り取ってしまう。しかし、放射線療法は、臓器の形態を保存し、かつその形態に伴う機能(働き)を保存しながら治療できる、という特徴がある。
○放射線治療には、当然、副作用があり、それぞれの臓器に、どれくらい放射線をかけるかは、蓄積された経験により、放射線治療医が判断しながら行う。
○陽子線は、正の電価を持つ核子であり、水素の原子核でもある。これを加速器を用いて、非常な高いエネルギー(光の6割程度)まで加速して、人間の身体に打ち込むと、一定の程度まで進んだ後、突然止まる。これをBragg
peakと呼ぶが、がんにBragg peakを合わせれば、正常組織には放射線が比較的かからないというのが、陽子線の、X線と比較しての利点である。
○陽子線のLETはX線と同じで、低いLETの放射線だと考えられている。陽子線治療は、 1954年に、アメリカのバークレーで始められ、すでに世界の十数か所で行われており、患者は1万8000人を超えている。1991年までは、頭蓋内のがんではなく、良性病変(血管性の病変や下垂体腫瘍)が約半数に近い。眼のブドウ膜が約3分の1で、頭蓋内の良性病変とブドウ膜の悪性黒色腫が、少なくとも91年までは大部分であった。
○最近になって、ブドウ膜黒色腫が若干減っており、前立腺がんが増えている。
○脈絡膜メラノーマは、ブドウ膜黒色腫と同じものであるが、非常にいい成績を上げており、局所制御は90%以上で、96〜97%はほとんど治ってしまう。生存者は80%程度ということで、非常にいい成績である。欧米では、この眼のがん(黒色腫)に対してだけ治療する陽子線の施設も、いくつか存在するという現状である。
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- ○我々の施設は、筑波にあり、昨年までは「高エネルギー物理学研究所」であるが、高エネルギー加速研究機構のブースター・シンクロトロンの、やや小さめのシンクロトロンを使用して治療をしている。
○患者数は、現在、540〜550名である。肝臓がんが我々のところでは30%を占めており、肺がんが9%、食道がんが9%のほか頭蓋内の腫瘍などが主なものである。
○肝臓がんの患者が、一番多く、95年までは、117人・139か所を治療している。
○治療成績は非常に良好で、局所の腫瘍をコントロールするには、5年で約9割が局所制御されている。肝臓がんは一か所を完全に治癒させても、何年か経つと、ほかの部分から新しいものが出てくる。あるいは肝硬変が悪くなって、亡くなってしまうということがあり、生存率は5年で約38%と落ちてくる。
○陽子線治療が現在、適用としてその効果が確立されている疾患は、私見では、眼のブドウ膜のメラノーマだけで、それに続く非常に近いものが頭蓋底腫瘍、そして肝臓がんではないかと考えている。
○将来、陽子線は、現在X線を用いて治療が行われているすべての疾患に、適用することが可能かと思われる。私はX線を用いて長い間、放射線治療を行っており、2年前から陽子線を実施しているが、患者の楽さ、苦しさが全く違う。陽子線は非常に楽で、90歳を過ぎた方でも平気で受けておられる。また、患者の苦痛を取るという意味での治療にも陽子線は使えると確信している。

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2 「国立がんセンターの陽子線治療プロジェクト」
荻野 尚(国立がんセンター東病院放射線部医長)
- ○国立がんセンター東病院は、医療専用の陽子線治療施設としては、国内で初めて整備される施設で、平成7年度の補正予算において、その整備が認められた。1996年の3月に入札によって業者が決まり、現在に至っている。建物は東急建設で、96年の5月に着工して今年の3月に竣工、装置は住友重機械工業で、今年の3月には主要装置の搬入はすべて完了したところである。
○9月からビームを出す予定で、現在その調整中である。放射線・陽子線治療を行うには認可が必要で、放射線障害防止法、医療法、電波法といった申請はすでに済ませている。後者2つについてはすでに取得しており、放射線障害防止法だけ残っている。臨床使用開始の臨床試験計画を作らなければならないが、骨子は決まり、現在詳細なプロトコルを作成中である。
○既存の東病院とは3か所の渡り廊下で接続されている。地上4階建延床面積4756uで、1階部分は治療のフロアで、陽子線治療関係のものが入っている。2階は、ボーラス・コリメータを造る部屋、あるいは加速器の電源、加速器の制御室がある。将来ポジトロンCTを入れようという計画があるので、そのための部屋をあらかじめ用意している。3階は陽子線の診断あるいは治療計画のフロアで、各種診断機器、治療計画機器が整備され、あとは診察室やカンファレンス、スタッフの居室という構成になっている。
○1階部分には、サイクロトロンという加速器があり、ビームが運ばれる。そして、回転ガントリー照射室2室と水平固定の治療室1室がある。
○水平固定では座位と臥位の兼用で、制御、呼吸同期、位置照合というシステムで構成される。
○患者を任意の方向から照射するには、ガントリーという機構が必要で、非常に巨大なものである。動く部分の直径が約10メートルで、重量が120トンを超える鉄骨フレームで、高さは台座も含めると、12〜13メートルになる。
○ガントリー治療室では、この大きな構造体は後ろ側に隠れてしまい、実際、患者には全く目に触れることがない。治療室としてはかなり大がかりであるが、それほど従来の放射線治療とは違和感がないと思っている。
○水平固定の照射室は、首から上の腫瘍の治療を目的としている。ガントリーはどこでも対応できるが、使い分けとしては、ビームを広げる方法、マルチリーフ・コリメーターのあるなしの違いがある。
○このほかに関連機器が必要となり、すべての装置は、陽子線治療あるいは診断機器を含めて全部ネットワーク化されており、画像および文字の情報はサーバに蓄えられて、そこから引き出される。診断治療計画機器としては、陽子線専用のヘリカルCT装置と、X線シミュレーターを組み合わせたものである。それからMRI装置やCR、ワークステーション、データサーバ、将来のPET用。それ以外にコリメータやボーラスを作るための工作機械、それから出来上がったものの形を検査する形状検査装置やこれらを制御する、いわゆるCADと呼ばれる装置が必要になる。これらすべてがこの陽子線治療棟に入り、診断からこのような工作機械を使って、治療あるいは治療効果判定まで、一連のものがすべてできるように構成されている。
- ○1997年1月より装置全体のテストを開始して、臨床使用は、1998年の夏あるいは秋頃を予定している。使用開始当初の臨床試験計画は、phase1として頭頚部の悪性腫瘍、非小細胞肺がんを、phase2として肝細胞がんを予定している。臨床試験計画以外の疾患には、当面対応しない。すべてプロトコルを作って、それにのっとったものしか行わないが、臨床試験の対象疾患部位等は順次増やしていく予定である。また、高度先進医療の申請を、可及的早期に実現したい。将来的には当然、保険適用を目指す予定である。
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3 「マサチューセッツ総合病院での陽子線治療:1973年からのハーバードサイクロトロン研究所の分割照射の経験とノースイースト陽子線治療センターについて」
ジョンE.マンゼンライダー(ハーバード大学医学部準教授)
- ○陽子線の生物学的効果はほぼX線と同じである。我々は、RBEを1.1として、陽子線の線量に1.1をかけることで、コバルトの線量と等価にしている。物理学的には、ブラッグピークで陽子線は止まり、これによってX線より病巣に線量を集中させ、よりよい分布を作る。通常、病巣に高い線量をあて、正常組織には低い線量をあてることができる。
○陽子線は、組織の不均等に影響されるので、CTによる3次元治療計画が必要になる。
○ハーバード大学のサイクロトロンは、1948年に作られ、1960年まで専ら物理の利用であった。物理研究は、1973年まで続き、1961年に、マサチューセッツ総合病院の定位放射線治療の臨床研究が始まった。1975年に、スート先生とゴイテン先生が、マサチューセッツの眼科、耳鼻科病院の眼の専門家との共同で、分割照射の研究を始めた。
○エネルギーは低く、160MeVで体内には最大16cmしか入らない。
○1997年6月末までの患者数を示すと、1回ないし2回のラディオサージェリーは、3170人である。分割照射は、4011人で、大部分が眼のメラノーマである。他の240人がその他の腫瘍で、肉腫、癌、グリオーマなどである。総計は7181人である。
○メラノーマでは、5年局所制御は、96%で、90%の患者が眼を保存できた。老人性黄班変性症は、多くの人がこのために失明しており、この治療は成果が期待できる。
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○前立腺癌では、臨床試行を行い、ビームのエネルギーが低いので、会陰部から照射を行っている。
○中枢神経系の腫瘍、下垂体腫瘍、良性の髄膜腫、悪性の神経膠腫や神経膠芽腫の治療や研究を行っている。
○頭蓋底と頸髄の肉腫、脊索腫、軟骨肉腫で、3年局所制御率は35%である。X線と陽子線により69Gyまで照射した症例の障害は許容範囲で、3年生存率は、90%と大変良好であった。
○脊索腫165人の頭蓋底の局所制御は良好でほとんど失敗はない。
○進行副鼻腔癌では、局所再発や転移はなく元気である。
○小児の腫瘍では、腫瘍に集中でき正常組織の照射を減らせる陽子線は、非常に興味深い研究テーマである。
○頭蓋底と頸髄の脊索腫のこども約40―50人を大線量で治療した。大人と同線量の治療であるが、非常に上手くいっている。
○ノースイースト陽子線治療センターは、マサチューセッツ総合病院の新しい施設である。この施設の目標は、広域の患者の陽子線治療で、我々はがん治療の成果を向上させる研究を続け、陽子線治療が患者に受け入れられる治療になるよう臨床をしたいと思っている。
○建物は、ベクテル社が建設しているが殆どできあがっている。装置は搬入され、ビームラインは現在入れているところである。ガントリーは、ベルギーのIBAで製造しており、1、2か月で搬入される。
○財源は、国立癌協会から2600万ドル、マサチューセッツ総合病院は2000万ドルで、総計4600万ドル、約50億円である。
○治療患者数は、1日10時間、1週に5日、1000人である。患者が増加すれば、週6日治療を行うこととしている。第4の治療室の増室も行うが、これにより1500人、2000人と増加させることができる。
○計画後、1993年11月に契約相手方を、1994年4月に装置のメーカーを選定した。建物の設計を行い、1994年5月に建築を開始した。完成までに2年半かかる。装置は既に搬入されており、1998年2月に全て終了する。装置が据え付けられたら、ビーム調整を行い、許可を取り、治療に入るが、今から14か月後を予定しており、1998年10月に最初の治療を行う予定である。
○新しい施設では、直腸、S状結腸、子宮、非小細胞癌等、現在治療している部位以外の治療も始める。後腹膜腫瘍の治療は積極的に行うつもりである。原発肝癌は少ないが、胆道癌は多く、膀胱癌も行いたいと考えている。
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4 「放医研の重イオン治療体制の整備と初期成果」
辻井博彦(放射線医学総合研究所重粒子治療センター治療・診断部長)
- ○治療成績をよくする試みには4つほどある。第1に、分布をよくしていかに病巣だけに集中させるかということ。第2に、腫瘍に対する効果と正常組織に対する効果の差をできるだけ大きくする試み。第3に、照射する前にどれだけ効くか予知できるような方法の開発。第4に、他の治療法との組み合わせである。今回のテーマである粒子線治療というのは、この1番目と2番目を追求した治療と言うことができる。
○現在、粒子線の中で治療上注目されているのは、プロトンと重イオンである。放医研ではヘリウムからアルゴンまで加速する機械が現在稼働中であるが、現時点ではカーボンイオンを使用している。
○プロトンも含めた重イオン、すなわちハドロン治療の特徴は、やはり線量分布である。
生物効果(RBE)だけを比較すると、X線あるいはプロトン、ガンマ線などに対して、重イオンの場合は高い。
○照射野を形成するには、照射野形成装置を加速器の先に設け、リッジフィルターでピークを病巣のサイズに合わせて広げる。
○ボーラスは深さ方向の、コリメータは横方向への金属の形成器である。
○一門でやってもX線等よりは利点があるが、多門にした方が荷電粒子線の利点をさらに生かせるので、最近は二方向以上の治療が大体原則になっている。
○平坦部とピークとの比を採って、この比が大きいほどよい。これを生物効果も織りまぜて比較すると、カーボンイオンが最も良いということで、放医研ではカーボンイオンを使用することにした。
○カーボンの左方向から右方向にビームを入れたときの、体内の分布で、横の切れはプロトンより非常に良い。中心軸でのピークの立ち上がりも、カーボンの方が非常にシャープになる。ただ、フラグメンテーションと言われるよけいなものがカーボンで少し多くなる。
○重イオンの場合、高い生物効果が期待できるのかは、中での荷電の電離の状況にあると考えられている。
○もう1つの重イオンの特徴は、体深部に至るほど、生物学的な効果(RBE)が高くなる。
○重イオン治療のパイオニアというと、アメリカのローレンス・バークレー研究所であるが、1992年にトライアルは終了しており、ネオンイオン治療を主に行っていた。
○ここでのデータを見ると、唾液腺、副鼻腔腫瘍、軟部組織腫瘍、骨腫瘍、前立腺、胆道系腫瘍等に非常に良い効果を示している。
○放医研は、1993年に施設が完成し、治療を目的とした施設としては世界で初めてである。イオン源、シンクロトロンが2つ、上下二重にある。そこからビームラインが引かれ、治療室が3つある。これ以外に生物実験室と物理研究室がある。
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○使えるビームは、ヘリウムからアルゴンまでであるが、現在はカーボンイオンをもっぱら使用している。
○ピークとプラトー(平坦部)の比率は、プロトンで0.9、カーボンは1.25である。
○プロトンと異なり加速器が巨大だから、原則としてビームは固定である。
○実際に透視で、最初に治療計画に用いた画像を上に示し、これから治療しようとしている患者の写真を下に映して、両者の合致度を見て、治療をスタートさせるということである。
○今年の2月までに230例・233部位の治療が行われた。原則としてToxicity Studyということであるが、現時点では大変安全な治療法である、というのを確認しているところである。
○治療成績が良いのは特に頭頚部、それから肺である。肝臓、前立腺、子宮がんは、まだ結果を云々するのには早すぎる。脊髄を腫瘍が取り囲んでいるような場合、パッチ照射法(パッチワークから名が取られているのですが)が非常に有効である。
○重イオンの場合には、外からPETスキャンという方法で確認することが可能である。カーボンを入れると、中で一部がカーボン・イレブン(C11)になるが、これは、短半減期の核種であり、20分の半減期の核種である。これを外部から測定すると、実際に照射された炭素イオンの止まった場所を推定することができる。
○頭蓋底の脊索腫、腺様嚢胞がん、甲状腺がんの頭蓋底への転移、悪性黒色腫の症例がある。
○もう1つ、適応だと思われるのは、非常に成長がゆっくりしたもの(スロー・グローイング)である。
○アメリカMGHでは、眼が非常に多く、Radiosurgeryが多い。ロマリンダ大学では、前立腺が飛び抜けて多い。
○また、イタリアでは、ハドロン治療の施設を国の中に1つあるいは2つを南と北につくり、あとプロトン治療の施設をいくつか配置したいと考えている。それらが総合的に重なり合って、イタリアの中で粒子線治療を発展させたいという計画である。
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5 「兵庫県立粒子線治療センター(仮称)と大型放射光の医学への利用」
菱川良夫(兵庫県保健部地域保健課参事 粒子線治療施設担当)
- ○兵庫県では全国と同様にがんが増加しており、全国平均と比べると少し死亡率が高くなっている。
○1987年、兵庫県では「対がん戦略」として、がんをゼロにするという大きな目標を、1992年には粒子線治療推進検討委員会が設置された。
○加速器の詳細設計を96年に実施し、今年度(97年度)に入り、加速器の製作が始まった。この秋から治療棟の建設に着手しようとしており、99年には建物の中に装置が設置される。2000年に加速器を動かしてみて、ビームテストなどを行うこととしている。病院棟については、96年度に基本設計、98年度(来年)に詳細設計を行い、99年度(加速器が治療棟に入るころ)に建設が始まる。
○兵庫県の施設では、シンクロトロンという加速器装置で、医療として使う線源は、陽子線と炭素である。エネルギーは、陽子線が、70〜230MeV/u、炭素が70〜320MeV/uと、高いエネルギーまで出せるようにしており、体の深い部位のがんの治療を行う。
○医療用に5室考えている。水平照射を1室、水平・垂直照射を1室、斜め45度照射を1室設置する。回転ガントリー照射は2室で、陽子線だけの治療となる。このほか開発用の水平ビームの室がある。
○病院は50床の入院施設で、「インテリジェント・ホスピタル」を目指す。
○この病院は、放射線科単科の病院である。このため、内科的あるいは外科的サポートが必要であるが、その支援の中心になるのが兵庫県立成人病センターである。
○粒子線治療は、先端医療であるから、全国の同様の施設とコミュニケーションを図り、治療をより効率的にやっていく必要がある。兵庫県内の病院、西日本の大学病院等から、適応患者の受け入れをしたいと考えている。
○ネットワークの中身は、カンファレンスになり、患者情報の交換になると考えられる。このカンファレンスに関しては、支援施設である成人病センターとの間で、日常的に行う。患者照会は、インターネットなどをうまく使い、安全にできるようにしたい。
○SPring-8では、60本ぐらいのビームでいろいろな基礎的なことを行うが、これを医療として利用する。
○SPring-8と粒子線治療施設の間は約2キロである。SPring-8で画像診断を行い、がんと診断された時、粒子線治療施設に来ていただくには非常に近い距離である。
○SPring-8でぜひ超早期発見をしていただき、粒子線で治療したい。小さながんであれば一日の治療で治ることも可能と考える。
○我々はまだ治療を行っていないが、肺がん、肝臓がんは兵庫県に非常に多いことから、それらをまず治療したい。また、頭頸部がんの治療は、炭素のみや陽子のみでの治療だけでなく、いろいろなビームの組み合わせで行いたい。
○いろいろ課題があるが、1つは費用で患者の負担の問題がある。先端医療であるため、ハード・ソフト両面から、常に開発・改良(improvement)していかねばならないと考えている。
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☆トピックニュース
━ 県立粒子線治療センター(仮称)着工! ━
- 県立粒子線治療センター(仮称)の建設工事がいよいよ始まりました。
平成9年10月10日、秋空の晴天のもと、工事の安全祈願祭が播磨科学公園都市内で行われ、井戸副知事はじめ、県議会議員、地元市町長、施工業者等関係者等約80人が出席し、工事の安全を願いました。
着工したのは、照射治療棟(鉄筋コンクリート4階建て、延べ床面積12,000u)で、シンクロトロン加速器を有する粒子線治療装置や患者さんの照射室などを備えます。
今後さらに50床の病床を持つ病院棟を隣接して一体的に整備することとしており、平成12年度末の完成を目指しています。
播磨科学公園都市では、10月6日に世界最大の大型放射光施設(SPring-8)の供用が始まったところで、今後がんの診断など医学分野への応用開発が進めば、粒子線治療センター(仮称)との連携により、より微細ながんの早期診断と治療が実現するものと期待されています。

- 県立粒子線治療センター(仮称)完成予想図 安全祈願祭であいさつする井戸副知事
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━ イタリアのTOPプロジェクト
━
- 平成9年11月12日、イタリアからMauro Belli教授が、兵庫県立粒子線治療センター(仮称)の計画調査ならびにイタリアのプロジェクトの紹介のため、兵庫県庁に来られました。
Belli教授は、Instituto Superiore di Sanita(国立健康研究機関 約 2000人勤務) の
Laboratorio di Fisica(物理研究所)放射線生物部門の責任者として、放射線の人体に対する影響や放射線の新しい医学利用などをテーマに日々活躍されています。
現在この施設では、TOPプロジェクトという、世界で初めての大型のリニアックによる陽子線治療を計画中です。
TOPは、Treatment Oncology Proton(プロトンでの腫瘍治療)の略で、ローマ市内の当研究所内に設置されます。
リニアックはすでに製作されており、陽子線が発生できると、70MeVの低いエネルギーの水平ビームで目の治療を始め、その後、予算が確保できれば200MeVのエネルギーによる水平ビームで深部臓器の治療を行うそうです。さらに予算が許せば、ガント
リーも作るということです。(エネルギーは200MeV)
当施設に接するがんセンターと共同で腫瘍の治療をする予定ですが、患者は全国から集めるとのことです。
また、Belli教授からは、現在用いられているRBEは、粒子線とX線との比較の指標ですが、実際の臨床ではこれよりも、他の分割や酸素効果をも含んだ新しい指標を用いる方が良いのではという提案がありました。
国際協力面では、TERRA計画やPSI、MGHにも関係しており、放射線生物学者の不足から国際的な共同作業をしているとのことでした。
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