兵庫県立粒子線医療センター
ニュースレターNo.17
March 2003
CONTENTS
■□ 県立粒子線医療センターの一般診療開始にあたって
■□ 一般治療開始にあたって
■□ 医療施設との連携について
■□ 陽子線治療開始までの手続きと治療の流れ
◆◇ 県立粒子線医療センターの治療費について ◆◇
■□ 県立粒子線医療センターと県立成人病センター
■□ 治療の流れ
県立粒子線医療センターの一般診療開始にあたって
兵庫県病院事業管理者
後 藤 武
いよいよこの4月、全国自治体で初の粒子線治療施設となる県立粒子線医療センターが一般診療を開始する運びとなりました。
粒子線治療は放射線療法の一つですが、その線量分布の特性からがんに集中して照射できるため、治療効果とQOL(生活の質)の保持に優れた新しい治療法です。
兵庫県では、死亡原因の第一位であるがんの撲滅を目指し、「ひょうご対がん戦略」のリーディング・プロジェクトとして、県立粒子線医療センターの整備に取組み、平成13年4月の開設から陽子線及び炭素線の臨床試験を実施してきましたが、このほど、陽子線について厚生労働省より医療用具の製造承認が得られたことから、一般診療を開始するものです。
治療費は最先端治療のため、「自由診療」となりますが、粒子線治療料については、国立がんセンター東病院並みの治療費(2,883千円)を実現するとともに、入院・検査料については健康保険の適用があったものとした患者負担とするなど、最大限の軽減対策を講じました。また、県民には粒子線治療料に対する無利子の貸付制度を設け、施設の利用促進を図ることとしています。
さて、粒子線医療センターが立地する播磨科学公園では、「人と自然と科学が調和する」新しい都市づくりが着々と進展し、このほど都市内に山陽自動車道に直結する播磨自動車道播磨新宮インターチェンジが開通するなど交通アクセスも向上してきました。
また、粒子線医療センターに隣接する大型放射光施設(SPring-8)では、医学利用研究が進められており、将来的には、大型放射光による微細ながんの早期発見と粒子線による早期のがん治療という、両施設の連携により世界的にも画期的な成果が期待されています。
県立粒子線医療センターの一般診療開始にあたっては、粒子線治療基準の周知や医療機関とのネットワークの構築を進めて、がんの治癒率向上とQOLの保持など県民の皆様の期待に応えるとともに、今後は治療実績を重ね、粒子線治療が確立された治療法として認知されるよう努めてまいります。
一般治療開始にあたって
名誉院長 阿 部 光 幸
昨年(2002年)10月に厚生労働省より当センターの陽子線治療装置に対して製造承認が下りたことから、いよいよ本年4月より陽子線の一般治療が開始できることになった。ここに至るまでの経緯を想う時、私には特別の感慨が湧いてくる。
私が初めて粒子線治療に係ったのは日本学術振興会による日米癌研究協力事業の資金で1978年、当時アメリカ・ロスアラモスで行われていた粒子線の一つ、π中間子治療を視察した時であるから、今から25年も前になる。ここで見た治療はただただ驚愕するばかりのものであった。まず、治療用にπ中間子を取り出すための線形陽子加速器が800m近もあり、近辺に病院がないことから患者は小型飛行機で運ぶといった具合で、万事アメリカ的というか、余りにも大掛かり過ぎ、コストの面からも、とても日本に導入できるような代物ではなかったのである。それがわずか四半世紀で当センターに見られるように加速器が小型化され、粒子線治療が実現するとは、あの時予想できなかった。
当時、日米癌研究協力事業で粒子線治療の研究が取り上げられたのは理由がある。それは、ブラッグピークを有する粒子線を使えば、がんを集中的に照射できること、また高LET粒子線は殺細胞効果が高いことが既に物理、生物学的基礎研究で明らかにされていたからである。この事実をがん治療に応用すべく、上記の事業を通じて日米が協力して研究を推し進めた結果が、今日の成功に繋がったと言っても過言ではない。私はこの事業の放射線治療セミナーの日本側オーガナイザーを務めたこともあって、当時、2年毎にほぼ15年間、日米で交互にセミナーを開き、互いに情報を交換しながら粒子線治療の実現に情熱を燃やした時のことを懐かしく思い出すのである。
今日では日米はもとよりヨーロッパでも、いくつかの施設で粒子線治療が行われるようになった。当センターでは2002年7月に陽子線、炭素線の臨床試験を終了したこともあって、同年10月25日、兵庫県の主催で一般の人々にも粒子線治療の理解を深めてもらうため、同時通訳をつけ、「国際粒子線治療シンポジウム2002
in 兵庫」を淡路夢舞台の国際会議場で開催した。
この会には粒子線治療を行っている国の代表を招待し、その成績を発表してもらった。発表施設は日本4、アメリカ、フランス、スイス、ドイツ各1施設であったが、いずれも優れた治療成績が報告され、本療法の有効性と安全性が裏付けられた。参加者は外国からの13名を含めて約200名で、熱心な質疑応答もあり、盛会裡に終えることができた。当センターで一般治療を開始するにあたって、時宜を得たイベントではなかったかと思っている。
前のニュースレターでも述べたが、当センターの基本理念として私が揚げるのは次の5つである。【1】がん患者の速やかな社会復帰を目指す、【2】比較的早期の原発がんを第一の適応にする、【3】病院らしくない病院で全人的治療を目指す、【4】世界に開かれた病院にする、【5】粒子線治療の情報を世界に発信する。
粒子線治療を行うには加速器や周辺機器が高価なため、治療費が高額にならざるを得ない。これが受け入れられるには、がん患者の速やかな社会復帰が可能になること、高齢者の場合は苦痛の少ない生き甲斐のある人生が送れること、ということになろう。がん患者の速やかな社会復帰を理念の第一に揚げる所以である。【2】の比較的早期のがんを対象にする理由は、速やかな社会復帰を実現するための必要条件であることはいうまでもない。【3】の病院らしくない病院という意味は、がんの告知を受けた患者の心理的苦痛を少しでも和らげ、リラックスした気分で治療が受けられるような施設にしたいということである。そのため兵庫県に頼んで施設全体をリゾート風の建物にしてもらった。国内外から多数の見学者が訪れるが、病院臭が少ないのに感心して貰っている。【4】は粒子線治療が行える施設は世界的に見ても限られているので、門戸を開放し、海外からも患者を受け入れ、国際貢献に少しでも寄与したいという思いからである。
当センターは新幹線相生駅から車で30分程山手に入った播磨科学公園都市にあるので、ロケーションとしては不便といわざるを得ない。しかし、病院を取りまく環境は自然に恵まれた別天地で、夜は高原で空気が澄んでいるため、星空が実に美しい。春から夏にかけては鶯やひばりの囀りがあちこちに聞こえ、秋ともなれば周囲の木々や山肌が幾色にも染まり眼を楽しませてくれる。その上狐や狸、それに鹿も現れるので、ここは先端科学と野生動物が共存する不思議な世界でもある。まさに、「自然と科学」の地なのである。
したがって、ここでの治療は、豊な自然に囲まれた病院らしくない病院での先端技術を駆使した粒子線治療、ということになる。それゆえ、私共はこれから患者さんの速やかな社会復帰を目指しながら、心身を共に癒す全人的治療 「Holistic Treatment」 を実現して行きたいと願っている。
医療施設との連携について
院長 菱 川 良 夫
●はじめに
当センターは、治療を希望されている方が、紹介され治療を行う施設です。また、治療後は、治療を受けた方が、紹介もとの病院に帰り、その後の診療を受けることになります。したがって、病院・診療所との連携が最重要になります。
●紹介、治療の定型化
治療基準を作り、それにあわせて病院から紹介していただきます。したがって、紹介の形式が決まっています。治療も、治療基準に沿ったプロトコールに従い行うので、一定の形式です。治療後も各病院で検査等していただきますが、これも一定の形式になっていくだろうと考えています。すなわち、粒子線治療を行う特定のがん治療は、おおむね包括医療となります。
●連携の構築
粒子線治療前後の診療と粒子線治療をどのように連携するかは、以下のようなステップで考えています。
1.病院・診療所での粒子線治療の理解
粒子線治療の適応を理解していただくために、治療基準にしたがい紹介していただき、治療結果では、画像を含めたデータを、すべての紹介もとの病院・診療所に提供します。また、治療後の経過観察を通して、そこで行った検査等を見せていただくことで連携を深めます。
2.治療を受けた専門家
病院・診療所と当センターをつなぐのは、治療を受ける人(治療後は、治療を受けた人)です。医療は、診療を提供する側と治療を受ける側との協力で、良好な医療になります。そこで、治療期間を利用し、治療を受ける方に、この治療を受けた専門家になるように、支援、教育をしていくつもりです。彼らが、経過観察の重要性を理解することで、当センターと他病院・診療所との連携がより深くなるのです。
3.情報開示
当センターでの治療成果は、すべて全体像としてホームページ上に開示していくつもりです。症例数、再発率、生存率など、治療結果を示すものを載せるつもりです。それらを、治療を希望する方が見て、かかっている病院・診療所から当センターへ紹介していただくことが連携の第1歩になるからです。
4.連携の技術面
技術的には、情報化社会の進歩から考えどのようなことも可能になると考えております。次の「陽子線治療開始までの手続きと治療の流れ」で述べているような、Faxでのやり取りは、コンピュータでのやり取りに代わると思われます。当面、治療後に治療を受けた方にわたす治療結果は、クリヤーホルダーにいれてわたしますが、これも早い時期にコンピュータ用の小さな記憶媒体に代わると考えています
以上、連携について述べてきましたが、いよいよ4月から一般診療開始となるため、その時点での紹介の概略を次に示します。
当センターは、神戸大学大学院医学系研究科の1講座(映像粒子線医学講座)であり、特定機能病院である神戸大学附属病院からの紹介は、通常の院内紹介と同様の扱いをします。
他の病院・診療所からの紹介は、兵庫県のがんセンターとして位置づけられている、県立成人病センターに放射線医療室を設置し、当センターと連携して治療に当たります。放射線医療室では、粒子線治療基準の適応判断、粒子線医療相談を行います。
また、紹介もとの施設で不足する検査がある場合には、それらが速やかに県立成人病センターで行うこととしています。
なお、他の専門家の意見を求めたほうが良いと判断した場合には、治療方針検討会議を専門家も含めて、成人病センターで開くことにしています。
アクセスの少し不便な当センターでは、治療を希望している方のできるだけの便宜を図るべく、当面前述のように紹介していただくことにしました。ただ、現在の情報化社会の進歩は、物理的なアクセスの不便を不便としない時代の到来の可能性を示唆しており、我々としても、それらの進歩にあわせて治療を希望する方への配慮をしていくつもりです。
陽子線治療開始の手続きと治療の流れ
放射線科長 村 上 昌 雄
この4月から陽子線治療の一般供与が始まります。治療を希望される患者さん、主治医の先生方にご理解いただきたい医療上の事柄について概要を述べます。
●はじめに
1.粒子線照射は高い治療効果を期待でき、副作用も少ない治療法ですが、他の治療法と同様に再発をする可能性もあります。
2.全てのがんが粒子線治療の適応(対象)になるわけではありません。また対象疾患でも粒子線治療が適当と判断されない場合もあります。
3.現在は、まだ健康保険の適用になっていません。
4.兵庫県立粒子線医療センターで行う治療は、粒子線治療に限ります。がんの診断のための検査や粒子線以外の診療は、主治医の先生にお願いして行っていただきます。すなわち、粒子線治療は、今の病気に対して主治医の先生と共同で行う医療となります。
●治療基準
適応疾患 |
主な適格性 |
投与線量 |
頭頸部がん |
局所に限局した頭頸部腫瘍 |
65GyE |
肺がん |
肺野型T1T2N0M0 |
80GyE |
肝がん |
孤立性原発性肝がん |
76GyE |
前立腺がん |
T1T2T3N0M0 |
74GyE |
転移性肺腫瘍 |
1つの転移で他臓器転移無し |
56GyE |
転移性肝腫瘍 |
1つの転移で他臓器転移無し |
56GyE |
GyE(Gray Equivalent)= 1.1×物理線量:光子線等価線量の単位 |
当面、陽子線治療の適応疾患は上記6疾患です。毎年開催する委員会で適応の拡大も含め見直されます。
●治療開始までの手続き
1 |
陽子線治療希望要綱の入手 |
ホームページ、郵送等 |
2 |
主治医の先生への書類の届出 |
|
3 |
必要な検査の実施 |
診断は紹介元病院が基本 |
4 |
主治医の先生からの紹介FAX |
成人病センター宛
(078-926-5410) |
5 |
成人病センターからの返信FAX |
成人病C外来受診日決定 |
6 |
成人病センター受診 |
治療の妥当性などを検討するため追加検査をする場合があります。 |
7 |
粒子線医療センター受診 |
I.C.、治療開始日の決定 |
8 |
陽子線治療計画入院 |
1週間入院 |
9 |
陽子線治療開始 |
外来通院治療も可能です。 |
成人病センター:兵庫県立成人病センター放射線医療室
粒子線医療センター:兵庫県立粒子線医療センター
I.C.:インフォームドコンセント |
治療をご希望の患者さんは、まず陽子線治療希望要項をホームページからダウンロードしてください。不可能な方は直接取りに来て頂くか、郵送希望と電話で伝えてください。
要項の中にある「主治医の先生へのお願い」、「治療基準」、「患者紹介FAX(1)」、「患者紹介FAX(2)」を主治医の先生にお渡しください。治療開始までの流れは左の表をご覧下さい。
●治療方法
(1)頭頸部がん:仰臥位または坐位で26回/5.5週間の治療を行います。
(2)肺がん・肝がん:呼吸同期装置を使用します。仰臥位で20回/4週間の治療です。
(3)前立腺がん:仰臥位で37回/7.5週間の治療です。
(4)転移性肺腫瘍・転移性肝腫瘍:呼吸同期装置を使用し、仰臥位で8回/1.5週間の治療です。
●経過観察
治療終了後は基本的にはご紹介いただいた病院で経過観察をしていただくことにしています。ただし、当センターでも治療後の状況を知る必要がありますので、定期的に主治医の先生方、または患者さんに電話、FAX、E-mailなどの手段を通した現状報告、または患者さんの定期的な外来受診をお願いすることにしています。
●連絡先
◆◇◆ 県立粒子線医療センターの治療費について ◆◇◆
粒子線治療の治療費は自由診療で、粒子線治療料、入院・検査及び入院時食事療養費が必要です。
1.粒子線治療料(照射技術料)
料金:一連の粒子線照射につき2,883,000円
【考え方】
粒子線治療料は、一部位のがんに対する一連の照射に伴う費用とします。
なお、「一連」とは治療の対象となるがんに対して初期の目標を達成するまで行う一連の治療過程をいい、照射回数にかかわらず一律の額とします。
【粒子線治療料に含まれる医療内容】
【1】治療計画作成 【2】固定具作成 【3】CT及びMRI撮影(位置決め) 【4】ボーラス・コリメータ作成 【5】照射 【6】位置決め 【7】PET 【8】治療計画変更に伴う一連の内容等
2.入院・検査料
料金:一部負担金(療養に要する費用×一部負担割合(※1))ただし、一部負担金(月額)が高額療養費算定基準(※2)を上回る場合は、高額療養費算定基準を限度とします。
(※1) |
一部負担割合 |
70歳未満 3割 |
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70歳以上 1割(又は2割) |
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(※2) |
高額療養費算定基準 |
【1】70歳未満 |
・一定以上所得の方 139,800円+(療養に要する費用−466,000円)×1% |
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・一般の方 72,300円+(療養に要する費用−241,000円)×1% |
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・住民税非課税の方 35,400円 |
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【2】70歳以上 |
区分 |
高額療養料算定基準 |
外来 |
入院及び外来がある場合 |
一定以上所得 |
40,200円 |
72,300円+(療養に要する費用-361,500円)×1% |
一 般 |
12,000円 |
40,200円 |
住民税非課税 |
I |
8,000円 |
24,600円 |
II |
15,000円 |
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3.入院時食事療養料
料金:標準負担額(※1)
(※1)標準負担額(日額)
健康保険法等に定める標準負担額とします。
【1】:【2】及び【3】以外の方 |
780円 |
【2】:住民税非課税(又は免除)の方 |
650円 |
【3】:住民税非課税で老齢福祉年金受給者の方 |
300円 |
兵庫県民の方には、次の制度が適用されます。
1.粒子線治療資金貸付制度の創設
粒子線治療料を一時に支払うことが困難な県民に対し、粒子線治療料の貸付制度を創設します。
(貸付制度の概要)
【1】貸付対象者:県内在住1年以上で世帯全員の総所得金額の合計額が346万円以下の世帯に属する方
【2】貸付対象費用:粒子線治療料(限度額2,883,000円)
【3】利子:無利子
【4】連帯保証人:1人
【5】償還期間:原則5年(但し、貸付を受けようとする方の経済状況等により償還年数を10年以内とすることを可能とする)
2.入院・検査料等に対する「県単独福祉医療制度」等の適用
粒子線治療の入院・検査料等の一部負担については、「県単独福祉医療制度」及び「生活保護制度」の適用者について、当該制度の適用があるとした場合の患者負担とします。
県立粒子線医療センターと県立成人病センター
副院長 安 武 晃 一
粒子線治療がいよいよ4月に一般供与されます。粒子線医療センターの本当の意味での開院が目前に迫ってきました。既に、治験開始時から粒子線ニュースレターが発行され、本院の紹介や成績は夙に各方面に向けて発信されていますので、今更門外漢である私がお話しするのも憚りますのでここではその様な話はいたしません。かわりに、昨年11月に本院の副院長(成人病センター 副院長・診療部長兼務)を命ぜられましたので両センターの関係あるいは位置づけについて少し述べさせていただきたいと思います。
本院は読んで字の如く、あるいは名は体を表す様に陽子線や炭素線を用いたがん治療専門病院です。本院の基本方針にありますように一つは陽子線と炭素線を併せ持った施設は世界的に見ても数少なく、故に世界に目を向けたあるいは向けられた病院を
目指す機関です。また、粒子線治療の適応疾患に条件が枷られてはいるものの、少なくとも本治療によって速やかな社会復帰が可能であり、この点が第二挙げられます。 がん治療を俯瞰した場合、本治療はQOLの高さにおいても特筆すべきものと思います。この様な最先端の医療を希望される方々に可能な限り速やかに受けていただき、 また治療後の経過観察や追加治療が必要な方々(勿論遠方の方々は紹介元の医療機関でお願いする予定です)を受け持つのが成人病センターの役割です。
一方、成人病センターの基本方針の中に
1)がん医療における県下の基幹病院として高度専門医療を行います。
2)粒子線治療の拠点病院として先進的ながん医療を行います。
と謳っています。とここまで書けば両者の関係も概ね推測がつくかと思います。そうです二人は一卵性双生児です。
さて、ここからは成人病センターがその業務を円滑に行うための取り組み状況をお話しいたします。本院と成人病センターが独立した病院でありながら一体化した組織として運用出来るような組織や施設を成人病センター内に作らなければなりません。
先ず組織ですが、両者の実際的運用を司るために成人病センター内に診療部放射線医療室を設置し放射線科部長の足立先生がその室長に就任されました。また、施設関係ですが、ここで急に浮上してきた案が既に廃院が決まった旧検診センターの再利用です。先ず成人病センター本館内の第一・第二内視鏡室と同じく第一・第二超音波検査室の検診センター一階への移転です。この移転は既に昨年12月末に終わり、両検査は本年から別館(旧検診センター)で業務を始めています。移転後の旧内視鏡室・超音波室の改造工事が本年からは本格的に始まります。まず第一に成人病センター内に従来の放射線治療外来診察室とは別に粒子線治療希望患者のための放射線医療室(外来診察室や相談窓口)を新たに設置しなければなりません。また現在、成人病センターの多くの画像診断が約1ヶ月待ちの状態のため、これを解決するために新たに最新のCT・MRI・US等を増設するべく院内の改築を行っていますがそのための部屋を確保するために本館内の放射線読影室、放射線技師室も移転していただきました。
ついでと言っては何ですが、現在成人病センターで行われているその他の改築工事も少し紹介したいと思います。
まず密封小線源治療が従来は3階東病棟のRa室で行われていましたが、機器更新(マイクロセレクトロン)によって外来治療が出来るようになり密封小線源治療病室の一般病室(個室)への変更が可能となったための工事。さらに手術室一室増築の工事。もう一つは外来化学療法充実のための処置室拡張工事、それに伴って一部の診療科外来診察室の移転工事が同時進行で行われています。この様な騒然とした中で粒子線関連工事が行われています。少なくとも粒子線関連施設だけは4月開院までに完了しなければなりません。
騒音と埃と振動が毎日のように病院全体を襲います。患者さんにとっては迷惑な話です。この紙面をお借りしてお詫び申し上げます。いずれにしても万全を期して粒子線医療センター開院と成人病センター放射線医療室の開設を迎えたいと思います。
治療の流れ
医療部放射線科 主任放射線技師 須 賀 大 作
陽子線治療を開始するための最後の必要条件が整い、いよいよ4月から陽子線治療がスタートする。必要条件の一つは、陽子線治療のための医療用具申請が許可されたこと。一つは治療費が議会で審議され決定されることである。今日までの6年を振り返ってみると、粒子線治療の装置と施設を立ち上げるために数多くの作業があった。スケジュールを遅延させないためには、職員がその時々に課せられた責任を果たすことが絶対条件である。こうした責任ある作業の重要性は「治療のながれ」でも同じである。患者さんの治療開始から終了まで、病院職員がその職務を果たさなければ、その結果として治療スケジュールの遅延や中断が発生し、さらには医療事故を引き起こすことも想定される。
当センターでは、作業の連係プレーを円滑に成立させるためいくつかの機能を構築している。【1】「治療のながれ」の中で、誰がどのように実施したかという実施記録が確実に情報システムに反映されるように設計を行った。この記録には、患者さんと接することによってしか得られない情報を書き込めるため、次のシーンで患者さんに接する技師が心構えと気配りができる仕掛けとなっている。【2】治療プロトコールに応じたクリニカルパスが走るように設計されている。パス確認によって患者さん個々のスケジュールと進捗状況が把握できる仕組みとなっている。
技師が担当する「治療のながれ」は技師による患者さんへの説明からスタートする。これを技師IC(インフォームドコンセント)と称している。技師ICの目的は、患者さんの協力が治療を円滑に進めるために必要であり、協力を得るためには治療の内容を理解していただくことが重要と考えたためである。説明の中で対話が生まれ、我々が思いもよらなかったことを患者さんから学ぶこともできる。そうした資産が次へと生かされていけば、より精度の高い治療ができるものと期待をしている。技師ICは、アニメーション機能を搭載したスライドショーで判りやすく説明できるよう工夫されている。また担当者による説明のばらつきをなくすためのシナリオも完備されている。それでも押さえきれない個性がどのように反映されるかが楽しみのひとつでもある。
技師ICが終了すれば、固定具の作成、治療計画用画像の作成、治療リハーサル、治療と続き、第1回目の治療後にPET撮影が行われ、計画通りに粒子線が照射されているかが確認される。
「固定具作成」では、熱可塑性樹脂を用いて作成する。熱せられた樹脂は、両面テープを扱うがごときで型どりする前にくっつき始めると収拾がとれなくなる。そのために二人がかりの作業となるが、今のところ人間関係による組み合わせの制限はないように感じている。
「治療計画用画像の作成」では、実際の治療体位と同じ条件で撮影が行われる。特に呼吸同期の調整は、以後の治療での重要な条件となるため慎重に設定が行われる。「治療リハーサル」で、いよいよ患者さんが治療室に入り、治療の時に行う位置決めの基準画像を作成する。この画像は治療の精度を決定すると言っても過言ではない。「治療開始」患者さんも担当技師も緊張する初日となる。治療から数日経過すると、患者さんも慣れてきて緊張が緩和される。この緩和が、じっとしていることの辛さを思い出させることになる。次々と課題が出てくるのは、粒子線施設立ち上げで十分身にしみている。こういう時は、さりげなく動かないで下さいと言うのが、もっとも効果的と私は感じている。「治療確認用PET」では、迅速性が勝負の分かれ目となることからストレッチャーや車椅子を用いて、さながら緊急処置の如く移動する。間違っても患者さんが転げないようにしなくてはならない。つくづく緊張のゆるむ間がない治療と思う。
「治療のながれ」の中で我々は患者さんと接している。理想としては患者さんごとに担当技師を決めて治療ができればと思っている。互いの信頼関係ができることで、より良いサービスを提供できると思うからである。
「治療後のながれ」では、我々は患者さんがどうされているかを会って聞かせていただく機会が少なくなると思われる。治療後の予後管理は紹介元病院で行われるため仕方のないことではあるが、この治療が多くの方に喜んでいただけるように、与えられた技師の責任を果たすことを再確認して治療開始を迎えたい。
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