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兵庫県立粒子線医療センター

ニュースレターNo.28
June 2009


CONTENTS

■□ 地域医療と広域医療

■□ 治療実績(2009年3月末時点)と治療基準の改訂

■□ 粒子線医療センターにおける看護師間連携

■□ 南東北がん陽子線治療センターの開設半年を振り返る

■□ 粒子線医療センターに赴任して〜人とのつながり〜

■□ 4年間を振り返って〜病院の進化〜

■□ 治療疾患の拡大に則った看護科の取り組み
      
■□ 第8回病院運営懇話会 開催

■□ セカンドオピニオン料金の改正





地域医療と広域医療

兵庫県立粒子線医療センター  院長 菱川 良夫

1. 地域医療
 日本の医療は、国内のどこに住んでいても、同じ病気の治療を受けた場合に、同質の医療が受けれるように構築されてきた。世界のどの国よりも、非常に公平感の良い医療システムであった。ただ、最近この地域医療が崩壊し始めている。大きな原因は、医師不足であるが、崩壊し始めてしまった医療システムは、なかなか元のようにならないのではと危惧される昨今である。さて、患者の側からみた地域医療は、地域の病院に行くことで、患者本人はあまり考えないでも、良い医療を受ける事が可能であった。しかし、こうしたシステムが、崩壊し始めている地域では、以前のような良質な医療を期待していたのに、期待に反した場合、患者は不満を持ち、システム崩壊ではなく、主治医の結果責任を問うこととなってきたため、頑張っている医師が、頑張れなくなってきている。この悪循環が、さらに医師不足をもたらす結果となってきている。

 医師以外の方と話をして気がついたのだが、企業の勤労者が各地に転勤する場合、地方であれば、本人だけが単身赴任し、東京への転勤であれば、家族がついていくという事を聞くと、地方の医師不足は、医療システムだけの問題だけではなく、かなり深刻である。すなわち、東京が人をひきつけており、このことは医師にとっても同じだということである。

2.拠点病院
 患者さんから考えた場合、小児科、産科や高齢者に関する診療科は、地域密着型の医療であるが、生活習慣病であるがんや循環器病疾患、また、小児の専門病院や災害・救急の専門病院は、広い地域の拠点に必要な医療である。したがって、広い地域での拠点化が必要で、地域医療病院の医師が拠点病院をオープンに利用できるような仕組みを作れば、地域医療病院に同じ様な設備を設置することがなくなると同時に、医師が有効に活躍できる仕組みができる。日本の医療の欠点は、地域の公平性を求め続けたために、医療資産があまりにも分散化しすぎたことである。放射線治療の領域でも、700台を超える放射線治療装置が国内にあり、多くは、非常勤医師で治療がされている。分散化をやめて拠点化すれば、このようなことは解決できる可能性がある。

3.広域医療
 粒子線治療は広域医療であり、当センターは、全ての都道府県からの患者さんを受け入れている。2009年3月末で、2500名を超える治療数で、約45%が兵庫県内で、大阪、愛知、京都と近県が続いており、広域医療であっても恩恵を受けている方たちは、施設に近く、施設を知る機会の多い方たちである。広域医療の特徴は、患者さんが自分で調べ、希望して治療を受ける医療である。地域医療のように、患者が考えないでもその地域での最善の医療にたどり着く医療ではない。広域医療は、明らかに地域医療との違いがなければならない。当センターも開院当初は、他の治療でも可能な前立腺がんや早期の肺がん患者が多く、地域医療の医師たちの理解もなかなか得られなかった。最近では、他の治療では困難な患者が40%を超え、この事により、地域医療を担う医師たちにも理解され、主治医の勧めが増えてきたと考えている。

4.グローバル型医療
 インドやタイなどで行われているメディカルツーリズムのような、グロバーリゼーションに応じた医療が各国で始まっている。これは、グローバル型医療であり、日本から海外へ移植を受けに行くのは、これである。粒子線治療では、海外に十分な施設がないことから、当センターでも今までに数人の海外の患者さんを治療してきた。広域医療である粒子線治療は、今のままでもグローバル型医療としてやっていけそうである。

 卒業後の外科医志望が現在減少しているが、ハイリスク・ローリターンであることだけではなく、保険診療の枠でのみしかできない制約も若い医師のモチベーションにかなり影響しているのではないかと考える。外科医や内科医が幸せに医療をするための一つとして、グローバル型医療を将来の日本の医療として考えてみてはどうだろうか。

5.将来の展望
 通常のがん治療は拠点病院で行い、粒子線治療などの特殊ながん治療を広域医療とする。地域医療- 拠点病院-広域医療の連携は、患者にとっても良い医療となり、医師にとってもモチベーションの高い医療になる可能性がある。この様なシステムを確立することで、がん治療をする外科医、内科医、放射線治療医の志望者が増えることを切に期待している。



治療実績(2009年3月末時点)と治療基準の改訂

副院長 村上 昌雄

2003年4月一般診療開始から今年10月までの約5年半に2339名の患者さんに治療を行ってきました。

年度別疾患別内訳


●対象疾患と医療連携
 2008年度も前立腺がんが最も多く、以下、肝がん、頭頸部がん、肺がんの順に治療を行っています。現在、神戸大学の耳鼻咽喉科頭頸部外科学と肝胆膵外科学の医師が、各々週1回当センターの非常勤職員として勤務しています。頭頸部がんと肝がん患者数は年々増加が見られますが、この様な医師間の医療連携も患者数増加につながっているものと考えています。

治療患者数の年次推移(2009年3 月:2639例)


●最近の変化
昨年度の患者数は567名でした。使用した線種は陽子線に比べ炭素イオン線の割合が増加しています。
 神戸大学だけでなく他の医療機関(市立加西病院、都島放射線科クリニック)との間でも、医師間の医療連携が進みつつ あります。
 早期がんだけでなく中期、進行がんまで対象となることも多くなり、徐々に適応が拡大しつつあります。たとえば進行肝がん に対するリザーバー動注併用や、局所進行膵がんに対して行っている抗がん剤を併用した粒子線療法も行われるようになってきました。

●最近の治療成績

頭頸部がん
 局所進行がんが多くを占めます。最近の成績は、悪性黒色腫(48例)の2年局所制御率:86%、2年生存率:52%、腺様嚢胞がん(24例)は各々85%、89%でした。頭蓋底浸潤(41例)に限定した検討では各々66%、85%でした。両線種(陽子線、炭素イオン線)とも16回または26回を採用し、今後も現在までの照射法を継続します。
肺がん
 I 期肺がん(80例)の3年局所制御率:82%、3年生存率:75%でした。最近では胸壁に浸潤した局所進行肺がんの治療も行っています。陽子線と炭素イオン線の治療成績に差を認めていません。
肝がん
 肝がん(290例)の3年局所制御率:89%、3年生存率:67%でした。陽子線と炭素イオン線の治療成績に差を認めていません。最大14cm の大きさのがんまで治療しています。ただし、小さながんのほうが局所制御率は高い傾向を認めています。
前立腺がん
 前立腺がん(290例)の5年PSA 制御率:88%、5年生存率:97%でした。初診時のPSA の値は予後を決定する因子です。初診時のPSA 値が4ng/ml以下の場合、5年PSA 制御率は100%ですが、4.1-10.0ng/ml では97%、10.1-20.0ng/mlでは87%、20.1以上の場合は70%となっています。治療後の直腸出血4%、血尿は6%に認めますが、粒子線治療は有用な治療法と考えられます。


兵庫県立粒子線医療センターにおける治療基準一覧(2009年)
対 象  イオン種線
頭頸部がん 陽子 60.8GyE/16回/3.2週(3.8GyE/回)
頭頸部がん 陽子 70.2GyE/26回/5.2週(2.7GyE/回)
肺野型肺がん 陽子 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
肺野型肺がん 陽子 66GyE/10回/2週(6.6GyE/回)
転移性肺腫瘍 陽子 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
転移性肺腫瘍 陽子 64-68GyE/8回/1.6週(8.0-8.5GyE/回)
縦隔腫瘍 陽子 70.2GyE/26回/5.2週(2.7GyE/回)
肝がん 陽子 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
肝がん 陽子 66GyE/10回/2週(6.6GyE/回)
消化管隣接型肝がん 陽子 76-84GyE/20回/4.0週(3.8-4.2GyE/回)
消化管隣接型肝がん 陽子 76GyE/38回/7.6週(2.0GyE/回)
転移性肝腫瘍 陽子 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
転移性肝腫瘍 陽子 64-68GyE/8回/1.6週(8.0-8.5GyE/回)
肝門部胆管癌 陽子 76GyE/20回/4.0週(3.8GyE/回)
原発性膵がん 陽子 60.8GyE/16回/3.2週(3.8GyE/回)
原発性膵がん 陽子 70.2GyE/26回/5.2週(2.7GyE/回)
原発性膵がん 陽子 50GyE/25回/5.0週(2.0GyE/回)
腎がん 陽子 70.4GyE/16回/3.2週(4.4GyE/回)
腎がん 陽子 76GyE/20回/4.0週(3.8GyE/回)
前立腺がんT-U期
(A群:予後良好群)
陽子 74GyE/37回/7.4週(2.0GyE/回)
前立腺がんT-V期
(B群:予後不良群)
陽子 MAB療法+74GyE/37回/7.4週(2.0GyE/回)
前立腺がんPSA>50ng/m
(l C群:高PSA群)
陽子 MAB療法+74GyE/37回/7.4週(2.0GyE/回)
または膀胱頸部浸潤(T4)
前立腺がんT-V期
(D群:ホルモン不応群)
陽子
陽子
+MAB療法
74-80GyE/37-40回/7.4-8.0週(2.0GyE/回)
直腸がん術後局所再発 陽子 74GyE/37回/7.4週(2.0GyE/回)
腟がん 陽子 74GyE/37回/7.4週(2.0GyE/回)
骨腫瘍・軟部腫瘍 陽子 70.4GyE/16回/3.2週(4.4GyE/回)
骨腫瘍・軟部腫瘍 陽子 70.4GyE/32回/6.2週(2.2GyE/回)
転移性骨腫瘍・軟部腫瘍 炭素 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
転移性骨腫瘍・軟部腫瘍 炭素 64-68GyE/8回/1.6週(8.0-8.5GyE/回)
頭頸部がん 炭素 60.8GyE/16回/3.2週(3.8GyE/回)
重要臓器近接型頭頸部がん 炭素 70.2GyE/26回/5.2週(2.7GyE/回)
肺野型肺がん 炭素 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
肺野型肺がん 炭素 66GyE/10回/2週(6.6GyE/回)
転移性肺腫瘍 炭素 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
転移性肺腫瘍 炭素 64-68GyE/8回/1.6週(8.0-8.5GyE/回)
縦隔腫瘍 炭素 70.2GyE/26回/5.2週(2.7GyE/回)
肝がん 炭素 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
肝がん 炭素 66GyE/10回/2週(6.6GyE/回)
消化管隣接型肝がん 炭素 76-84GyE/20回/4.0週(3.8-4.2GyE/回)
消化管隣接型肝がん 炭素 76GyE/38回/7.6週(2.0GyE/回)
転移性肝腫瘍 炭素 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
転移性肝腫瘍 炭素 64-68GyE/8回/1.6週(8.0-8.5GyE/回)
肝門部胆管癌 炭素 76GyE/20回/4.0週(3.8GyE/回)
原発性膵がん 炭素 60.8GyE/16回/3.2週(3.8GyE/回)
原発性膵がん 炭素 70.2GyE/26回/5.2週(2.7GyE/回)
原発性膵がん 炭素 50GyE/25回/5.0週(2.0GyE/回)
腎がん 炭素 70.4GyE/16回/3.2週(4.4GyE/回)
腎がん 炭素 76GyE/20回/4.0週(3.8GyE/回)
直腸がん術後局所再発 炭素 70.4GyE/16回/3.2週(4.4GyE/回)
骨腫瘍・軟部腫瘍 炭素 70.4GyE/16回/3.2週(4.4GyE/回)
骨腫瘍・軟部腫瘍 炭素 70.4GyE/32回/6.2週(2.2GyE/回)
転移性骨腫瘍・軟部腫瘍 炭素 52.8GyE/4回/0.8週(13.2GyE/回)
転移性骨腫瘍・軟部腫瘍 炭素 64-68GyE/8回/1.6週(8.0-8.5GyE/回)
限局性腫瘍 陽子・炭素 任意(正常組織は耐容線量以内)

●治療基準一覧(2009年)
 2009年3月18日に県立粒子線医療センター治療基準策定委員会を開催しました。2009年版は陽子線と炭素線の比較試験、膵がんに対する新たな治療基準が登場したことが特徴です。一方、従来の基準のうち実際の治療例がなかった子宮がんの基準は削除しました。

●今後の方向性
 粒子線治療施設・知識の普及や適応疾患の拡大に伴い、さらに患者数の増加が予想されます。これまでの治療結果を踏まえ、より一層、安全確実な治療を実施したいと考えています。

@陽子線と炭素線の適応を明確化するための臨床比較試験の実施。
A医療連携のもと、新たな疾患・病期に対する集学的治療の拡大。
B患者カルテを中心とした経過観察システムのより一層の充実。
C基礎生物・物理学研究の推進。


粒子線医療センターにおける看護師間連携

がん看護専門看護師 藤本 美生

1.治療後のフォローアップ体制
 粒子線治療後の患者の経過は、紹介元病院である地域の病院と、粒子線医療センターの両施設で協働しフォローアップを行うシステムをとっています。治療後の患者は紹介元病院で定期的な検査や診察を受け、そのデータを主治医から預かり、当センターに送付します。当センターでは、それらをもとに治療後経過の把握、再発の有無、副作用の変化などを定期的に診ています(図1)。

 看護師は、治療後のさまざまな不安や困りごとに対する相談対応、また治療中に起こった皮膚炎や口内炎などの副作用は治療後もしばらく持続するため、電話やメールでケア指導を継続しています。

 これまで、粒子線治療後の患者の経過や、副作用の変化と対処法、生活上の困りごとなどは未知であり、患者自身だけでなく、日頃患者をサポートしている紹介元病院の看護師にとってもケア提供は手探りであったと思います。
 粒子線治療を受けた患者も、一般診療の開始(平成15年4月)から2500名以上となりました。図1のようなシステムで経過観察を行う中で、患者からの毎月150件以上の電話相談や、患者が3か月毎に送付している検査結果や患者カルテなどからも治療後の一般的な経過が少しずつ把握できるようになりました。

図1 治療後のフォローアップ体制

2.粒子線治療の情報共有と連携・協働
 当センターの看護師の次の役割として、粒子線治療とケアに関する情報提供を行い、地域の看護師にご理解いただき、協働しながらケアが提供できることと考えています。治療中におきた有害事象は、治療後も持続することが多く、細やかなケアと医療的処置が必要となることもあります。がん患者として再発や転移の不安、晩期有害事象に対する早期発見についても、地域の病院の看護師と協働することでよりトータル的なケアが行えると思います。
 粒子線治療後のケアはまだ十分に知られていないため、昨年度は、粒子線治療と看護についての情報提供を行うことと、患者ケアが協働で行える関係性を作ることを目標に、以下のような取り組みを行いました。

(1)情報提供
 過去に粒子線治療を受けた患者の主な紹介元病院約240施設に対し、粒子線治療後のフォローアップ体制、主な疾患の治療後看護パス、副作用のパンフレットを配布。

(2)連携・調整
 患者紹介の多い施設を順次訪問し、地域連携室担当者やがん看護専門看護師に対して、看護連携を依頼。昨年度は、加西市立加西病院、姫路赤十字病院、兵庫県立がんセンターを訪問しました。

(3)看護研修
@新設された南東北陽子線治療センターの看護師の研修受け入れ
A兵庫県立がんセンターの看護部と共催で、昨年12 月放射線看護研修を開催。
兵庫県内の看護師約40 名が研修に参加。
B紹介元病院の看護師を対象に、粒子線医療センターの見学と研修を企画。2009年1月16日、23日に全国から計22名が参加。
C柏原看護専門学校の教員、揖龍訪問看護ステーション看護師の研修受け入れ
D学生の見学受け入れ
兵庫県立大学大学院生、大阪大学大学院生、近大姫路大学看護学部学生などの施設見学と看護の紹介

【研修内容】
1. 粒子線治療について(副院長 村上昌雄)
2. 治療計画の見方・看護への活かし方(装置管理科長 赤城 卓)
3. 技師IC・固定具作成場面見学(担当放射線技師)
4. 粒子線治療における看護(看護長補佐 舛田かをる)
5. 粒子線治療のフォローアップ体制(がん看護CNS 藤本美生)
6. 装置見学(放射線技術科長 須賀大作)

3 顔の見える交流の大切さ
地域の看護師対象の粒子線看護研修や施設訪問を通して、顔の見える交流の大切さを感じています。多くの看護師は粒子線治療は未知の領域であるため、粒子線治療の適応に関する一般的なことや、粒子線独自のスペーサーに関する質問などが出されました。
同時に、それぞれの施設で粒子線治療後患者のケア方法に関する悩みを抱えておられることも分かり、交流ができたことで、これまで感じていた疑問の解決に、少しは役立ったと考えています。
 中には、フォローアップ方法に対して、患者への画像貸出しに関する業務的な負担があることや、粒子線と患者のやり取りが見えないなどの問題提起を受けることもありました。こうした質問が、当然のように日々行っていた治療後のフォローのあり方について、改めて考える機会に繋がりました。
 研修のアンケートでは、「治療室の見学や、病室、経過観察の相談室を見学することにより、粒子線治療がイメージができるようになった」「治療後の患者像がつかめた」などの感想が書かれてあり、看護師自身が粒子線治療と看護の理解を深めていただく良い機会になったのではないかと思っています。

4 おわりに
 こうした看護間連携を目指した顔が見える交流を通して、患者ケアについての電話や看護診療情報提供書の活用など協働できることが増えてきたことを実感しています。治療後は患者に直接的なケアを提供する機会が少なくなりますが、患者が治療を受けてよかったと思えるように、継続看護がスムーズに行える密な連携を作っていきたいと考えています。
 今後とも、地道な活動ではありますが、当センターの看護師から、いろいろなことを発信していきたいと思います。


経過観察の電話相談の様子

粒子線看護研修の様子



南東北がん陽子線治療センターの開設半年を振り返る

財団法人 脳神経疾患研究所
附属 南東北がん陽子線治療センター
事務長 飯野 克郎

設立の経緯
 経営者である渡邉理事長は、日本社会は高齢化が進み、がんによる死亡者が増加する将来、「切らずに」「副作用がほとんどなく」がんを治すという患者さんにとって優しい治療が社会的要請であると考えていました。 そして、それを実現するには陽子線治療が最も適しているのではないだろうかと探っていました。
 そんな中、2004年12月、兵庫県立粒子線医療センターを施設見学し、陽子線治療の必要性・重要性、可能性などの認識を得て、2005年6月には、陽子線治療施設である
アメリカ合衆国ボストンにあるMGH(マサチューセッツ総合病院)や南カリフォルニアにあるLLUMC(ロマリンダ大学メディカルセンター)などを視察し、陽子線治療施設の経済性を勘案した建設の可能性の判断ができました。
 その後、兵庫県立粒子線医療センターの厚意によるスタッフ教育や治療連携の協定が、最終決定要因となり、陽子線治療システム導入決定に至りました。

新たな船出
 開設までの間、資金確保、治療装置電気メーカーとの調整、スタッフ確保、文部科学省への使用許可申請など、立ち上げに向けて種々困難な問題もあり、紆余曲折もありましたが、2008 年10 月1日にオープンに漕ぎ着け、同月17 日には1例目の治療が開始されました。
 以前から総合南東北病院泌尿器科で予約をしている前立腺がん患者さんを中心に治療がスタートし、当初は自由診療(総額3,000 千円)で行い、1月15 日には10 名の治療実績を上げ、東北厚生局へ何度も足を運び、2月からの先進医療(2,883 千円)が認められることになりました。しかし、私の心情は、晴天の中、不破(センター長)艦長率いる宇宙戦艦ヤマトが船出をし、行く先は、正に暗雲漂う嵐の中へ突入するようなイメージでした。
 その後、患者さんからの問い合わせや、県内外からの外来・紹介も増え始め、4月8日には、100 人目の治療がスタートしました。
 このように患者さんが急増する中、ベッドがあっという間に満床(19 床)となり、抗がん剤治療との併用患者も多く、病床利用が必要不可欠となるわけですが、近隣のホテルを利用していただき、止むを得ず通院での治療をお願いしているところです。中には、毎日100km 以上の距離を車での移動をされている方もいて、治療時間の予約や入院の調整にも苦慮している状況です。

 一方で、医療事故の心配も絶えません。そのため、医療安全対策や治療に伴う品質管理を最重要と考え、医学物理士を中心とした品質管理の体制整備を行い、精度管理と事故防止に鋭意努めています。

治療の充実に向けて
 プロジェクト開始から、わずか3年の期間でオープンしましたが、常に新しい問題が発生し、その解決がなければ次に進めないという問題との戦いの日々で、診療開始後も、更なる多くの問題が日々発生し、今も戦いの日々は続いています。
 我々が行えることには限界が有りますが、不破センター長を中心に、患者さんが安心して治療を受けられるよう、医療安全体制を整備し、品質管理を徹底し、患者さんとの連絡体制の整備や、徹底した職員への情報提供による安心したコミュニケーションがとれるよう取り組んでい
ます。
 また、兵庫県立粒子線医療センターとの治療連携を密にするとともに、隣接する地域がん診療連携拠点病院(総合南東北病院)や高度診断治療センターである(南東北医療クリニック)とも一体となり、世界に開かれた“民間初の陽子線治療施設”として充実した陽子線治療システムの構築に向け、職員一丸となって取り組んでいきたいと強く考えています。



粒子線医療センターに赴任して〜人とのつながり〜

放射線科医長 美馬 正幸

 この4月から当センターに赴任しています。以前は国立病院機構の神戸医療センター(神戸市須磨区)で、放射線科業務一般を行っていましたが、放射線治療には週に1日程度従事していました。
 このたび、当センターに採用され、放射線治療の経験を積み、将来、放射線腫瘍医として、がん治療に携わっていけたらと考えています。
 粒子線という特殊な物理特性を持った放射線を使用する治療を目のあたりにして、がんに侵され苦しんでいる患者さんに対して、最先端の機器を使用し、医療技術を駆使して、がんを良くする治療として感動とともに、魅力も感じております。
 今まで医療に携わってきて、強く感じたことは、「人とのつながり」が大切ということです。患者さんにも十分な説明を行い、理解と納得をして頂き、良いコミュニケーションがとれて、信頼関係を築くことが治療に非常に重要と考えます。患者さんの協力なくして、治療を遂行することや治療の効果も望むことはできないと考えています。
 また、がん治療はチーム医療です。周囲のスタッフ、すなわち医師、技師、看護師、薬剤師、事務と密に連携をとり、一つの治療(がんを良くすること)を行うことができます。その過程でより良い治療法を模索することや患者さんの病態を伺ったり、治療計画の修正、今後のことについて話し合ったり、患者さんの環境を整えることが必要になってきます。その際、周囲のスタッフと良い関係を築いていると非常にスムーズそれらのことを行うことができます。
 今後も、「人とのつながり」を大切にしながら、粒子線治療の発展に頑張って行けたらと考えています。



4年間を振り返って〜病院の進化〜

放射線科前医長 宮脇 大輔

 粒子線医療センターには、2005年4月から非常勤医師として、2006年4月からこの3月までの3年間は、常勤医として勤務しました。
 粒子線医療センターは、この4年で劇的な変化(進化)を遂げたと思います。私が勤務し始めた2005年というのは、炭素イオン線治療が一般診療化された直後で、陽子線治療、炭素イオン線治療の両方の治療を行えるようになった時期でした。粒子線治療というものが世間に広まり、徐々に患者数が増え、また、放射線技術科の須賀科長が中心となって推し進める「計算機高度化」「保守ネットワーク」「保守分散管理」のプロジェクトの成果も上がり、1年を通じてコンスタントに多数の患者さんを治療できるようになり、2006年には治療患者数が1日60人を越え、年間514人となりました。
 2007年度には治療患者数が594人となるのですが、この年度末から、それまでは全て医師が行っていた粒子線治療計画業務に、医学物理士も参加するようになり、治療計画に専従するため、治療計画も更に良いものになったと思います。この時期から毎朝約1時間、前日に作られた治療計画の是非について多職種が集まって徹底的に検討するカンファレンスが始まりました。また、診療放射線技師も治療計画業務にローテーションで携わるようになり、治療計画を作る側の立場に立った画像撮影をしてくれるようになりました。おそらく、治療計画業務の経験が実際の照射業務にも生かされていると思います。
 さらに、神戸大学病院肝胆膵外科と耳鼻咽喉・頭頸部外科からの非常勤医師も勤務するようになり、他科との密なコミュニケーションにより、粒子線治療の質の高さが一段上がったと思います。2008年からは肝臓がんや化学療法に詳しい医師が加わり、肝臓がんに対しては、様々なモダリティを駆使した治療を提供できるようになっていますし、一部の疾患では、化学療法を併用した粒子線治療も開始しております。また粒子線治療の弱点である急性期・晩期の皮膚炎についても、医師・看護師で皮膚ケア担当チームを作り、新たな予防法・治療法を開発し、その成果が出つつあります。
 患者さんにより良い医療を提供したいという気持ちは4年前も変わりなかったと思いますが、以前は各々の職種の人が各々の立場で頑張っていたのが、今は全スタッフが一丸となっているように思います。
 私はこの3月末で兵庫県立粒子線医療センターを退職し、現在、神戸大学医学部附属病院放射線腫瘍科の所属となりましたが、4月からも週1〜2回、粒子線で勤務させていただいています。今後ともよろしくお願いいたします。




治療疾患の拡大に則った看護科の取り組み

看護科長 村本 洋子

 当院センター平成13・14年の治験を経て、平成15年より一般診療を開始し今年で7年目を迎えます。近年は粒子線治療を受ける患者の層が幅広くなってきており、看護ケアも対象に合わせ変化させていく時期になってまいりました。当初、入院患者の大半を占めていた前立腺がんはQOL(Quality of life)の低下が少なく治療完遂が可能であることから通院に切り替わりつつあります。入院は、頭頸部・肝・肺・骨軟部の治療や持病のある方など治療中により細やかな看護ケアを必要とする患者を受け入れています。また、平成21年1月からは抗がん剤による化学療法を併用した治療が新たに導入される等、粒子線治療は発展しており、治療方法や対象となる患者の状況も様変わりしています。このような状況に則った、患者満足の充実を目指した看護科の取り組みの概要を紹介します。

○ クリニカルパスの積極的活用とケアチーム活動の推進
 一般診療開始と同時に全症例においてクリニカルパス(以下「パス」)を活用し、その数は7種類から40種類以上に増えており、治療過程の中で医師からの患者・家族へのインフォームドコンセントは勿論のこと、看護師はパスに基づき具体的でわかりやすい説明・指導を心がけています。対象疾患の拡大により、パスによる標準化ケアを実践する側面と患者の心身を把握した個別的な看護が求められます。照射部位や線量等、治療計画に変更が生じた場合には、電子カルテ上で速やかにパスの修正・追加が可能で、個人に即した治療・ケアマップとして、好評を得ています。また、粒子線治療に伴う口内炎・皮膚炎等の合併症ケアでは、他のセクションと協働・連携し、患者が主体的にケアに参加できるよう皮膚ケア・口腔ケアチーム活動を実践しています。これらのことが入院〜退院後の患者のセルフケアの促進に繋がっています。

○地域施設との連携と退院後のフォローアップシステム
 治療を受ける患者の居住地は北は北海道から南は沖縄と全国規模です。遠方等を理由に入院希望する患者を全て受け入れることは困難であり、平成18年から近隣の2病院との連携によりそこからの通院システムが確立できました。その結果、治療待ち期間の短縮・療養環境の確保により、満足・安心の声が返ってきており、退院後は、経過観察チームが中心となり電話相談に応じています。しかしながら、通信手段による遠隔での看護支援には限界もあり、生活・心理側面から支援する地域の施設・看護師との連携が重要になることを痛感しています。
 今後は、更に効果的な継続看護ができるようこの連携システムを評価するとともに連携病院の拡大を図りたいと考えています。そのためにも、先進医療を担う看護師として構築した専門的な知識・技術を評価・整理し、広く発信していくことが不可欠です。今年度は、院外看護師を対象とする研修会開催や関連学会への発表を行なうとともに、がん拠点病院や他の粒子線施設との交流を深め、チームが一丸となり専門性の高いがん看護を展開していく意気込みです。


第8回病院運営懇話会 開催

病院運営に当たって、県民の多様な意見を求め、県民の医療ニーズに反映させるため、委員全員(7名)参加のもと、運営懇話会が開催され、活発な議論が交わされました。

開催日時
平成21年 3月2日(月)
15時〜 16時30分
主な内容
・粒子線治療の保険適用時期について
・保険適用部位について
・陽子線治療の割合の減少について
・センターとしての治療方針について

セカンドオピニオン料金の改正

平成21 年5月1日から、料金体系が時間定額制(保険適用外)となります。
○面談時間 30 分あたり 10,500 円 (返書作成料等を含む)
15 分超過毎 2,250 円 加算