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兵庫県立粒子線医療センター

ニュースレターNo.29
December 2009


CONTENTS

■□ 兵庫の粒子線治療

■□ 陽子線と炭素イオン線の治療実績

■□ 第7回県立病院学会に参加して

■□ 照射期間中の癒しのひととき

■□ 粒子線医療センターに赴任して〜人とのつながり〜

■□ おいしく食べられるように

■□ 兵庫県立粒子線医療センターで研修して
      
■□ 医療トピックス



兵庫の粒子線治療

兵庫県立粒子線医療センター
院長 菱川 良夫

 当センターでは、2001年に陽子線治療の臨床試験を行い、2002年に炭素イオン線治療の臨床試験を行ってきました。
 2003年から一般診療を開始し、ようやく今年度、単年度黒字化が見込める状況にあり、新たに粒子線治療施設を検討されている方への参考になればという考えで、現在までの経緯と最近の状況を、大きく3期に分けて整理してみました。

1)第1期(一般診療の開始:2001-3)
 医療は、薬事法に従い行われます。薬事法では、新規の医療機器は臨床試験を行い、安全性や有効性等に関して国に届け出します。承認されれば、製造メーカーは、その機器の販売ができ、医療機関はその機器で医療ができるようになります。2年間の臨床試験は、医療をするための準備期間でした。
 2003年の一般診療は、臨床試験の対象であった頭頚部癌、肺がん、肝がん、前立腺癌で治療をスタートし、全員入院の上、慎重に治療を行ってきました。

2)第2期(装置効率の向上:2004-6)
 当センターの場合、年間640名以上の治療をすれば黒字化し、継続的な運営が可能です。導入時点の装置は、研究施設の小型版であり、1日あたり、通常の勤務時間内で約30名の治療しかできませんでした。1日30名は、年間にすれば約300名です。600名以上の治療をするには、当時の装置では2交代が必要で、実際、スタッフの頑張りで、1日50名の治療をしたこともありました。しかし、最後の患者さんの治療は夜の8時頃となり、とても頑張りだけでは駄目だと判断し、1日60名の治療を勤務時間内にする目標を立て、放射線技術科、装置管理科並びにメーカーを励まし、装置の効率性向上について徹底的に考えてもらい、その結果、10万個の部品と発生する障害を、データーベース化しました。
 集中メインテナンスが約1月かかり、その間、治療ができなかったのを、2006年度から、データーベースの解析で、各月の分散メインテナンスに変えることができ、これにより、年間を通しての治療が可能となりました。
 1日30名の治療を60名にするために、現場の視点でメーカーを指導し、装置の効率化を進め、これによりメーカーでは、10以上の特許をとる結果となりました。例えば、陽子線治療を朝の9時から始め14時まで行い、炭素イオン線に切り替えるのに、1時間かかっていたのが、今では約10分となっています。こうした結果、通常勤務内での治療患者数は60名になっています。

3)第3期(チーム力の向上:2007-9)
 保守分散方式により、多数の患者さんの治療ができるようなったことで、他の治療で治せない患者さんの数も増えてきました。
 この間、チーム医療の質の向上を目標として、特に治療計画を徹底的に改善してきました。放射線技師、医学物理士、医師の共同で治療計画を作成するとともに、前立腺以外のがんでは、陽子線と炭素イオン線の2種の治療計画作成を徹底するとともに、毎朝、治療計画に関するカンファレンスを医療スタッフで行い、2種の計画を比較し、議論を続けてきたことで、治療計画に関するチーム力が非常に高くなってきました。放射線技師や医学物理士が、臨床での問題点を理解し、医師は物理的な面での治療計画の理解が進んだと考えています。
 また、照射するための更衣ロッカー設置による着替えロスをなくす等、照射の効率化も進み、。2009年8月には1日99名の治療を達成しましたが、18時半までに全ての治療が終了していました。
 第1、2期では、前立腺癌の患者さんも入院していただいてましたが、現在は、他の治療で治すのが困難な手術不能な局所膵がんや血管にまで腫瘍の浸潤した肝がんの患者さんが増え、入院は遠慮していただいています。このような進行がんでは、化学療法の併用も必要で、看護師、薬剤師の理解と協力のもと、治療を進めているのが現況です。

4)今後の展開
 粒子線治療は、ハードである装置とソフトである診療からなるシステム医療であり、ハードを良くすることで、多数の患者さんが治療できます。がん患者さんにとって一番悲しいのは、治療が早期にできないことです。今までの装置システムの改善は、100名の治療を通常勤務時間より少し延長することで達成し、多くの患者さんに待つ悲しみを与えない治療を提供してきました。ソフトである診療面での改善を続けることは、より難治な局所癌の治癒を可能にします。
 今後も、難治癌を治すことと、他の治療より楽に治せることが粒子線治療の大きな特徴であり、それらを生かした安全で良好な医療の提供を続けていくとともに、がん治療は、医療側と患者側が、励まし合えることでより効果が出ると考えており、それを実現するべく努力をしていきたいと考えています。





陽子線と炭素イオン線の治療実績(2009年上半期:9月末時点)

副院長 村上 昌雄

2009年9月末時点で2976名の患者さんに対して治療を行ってきました。



●治療を受けられる方々の居住地域
 2003年の一般診療開始時点は、兵庫県の割合が6割を超え、近畿地方にお住まいの方々(兵庫県を含む)の割合が8割を超えていましたが、年々、知名度の浸透とともに、他の地方から来られる方も増えつつあります。因みに、21年度上期(4〜9月)の割合は、兵庫県が約4割、近畿地方((兵庫県を含む)の割合が全体の2/3を占め、残りの1/3が、近畿地方以外で、中部・中国・九州・四国の順で、西日本が中心となっています。



●炭素イオン線治療の増加と前立腺がん
 前立腺癌は陽子線を用いて治療を行います。前立腺癌以外の疾患の治療は陽子線と炭素イオン線のいずれも可能ですが、最近では炭素イオン線治療をすることが多くなってきました。2007年度より両線種を用いて治療計画を作成するようになり、一人ひとりの患者さんに最適な線種を検討し選択するようになった結果であるといえます。
 なお、前立腺癌については毎年200件前後の治療を行っており、大きな増減はありません。



●頭頸部がん
 頭頚部がん治療は近年増加傾向にありましたが、今年度の現時点では、33名と前年度よりやや減少しています。2007年度以降、炭素線の治療実績が増えています。治療においては、視神経、脳などの重要臓器への不必要な照射を避けることが重要となります。そこで両線種の治療計画を作成してした結果、これら重要臓器近くに腫瘍がある場合は、炭素イオン線が選択される頻度が高くなってきました。




●肺がん
 肺がんは年間約60件の治療を行っています。多くはT期肺癌です。近年は炭素イオン線を選択することが多くなってきました。




●肝がん
 昨年は年間110件、今年度は上半期で既に83件の治療を行っており、治療件数は年々急速な増加傾向にあります。治療は、昨年度が炭素イオン線を使用することが多かったのに比べ、今年度は陽子線が増えています。消化管に隣接する腫瘍は、消化管を保護するべく、より厳密で高度な治療計画が必要となり、その結果、炭素イオン線治療を選択することが多くなりました。




●骨軟部腫瘍
 年間約30件の治療をしています。骨軟部領域から発生した腫瘍は、従来の放射線に対して抵抗性のある腫瘍が多く、炭素イオン線治療を行うことが多くなりました。



●膵がん
 2009年度に入り、当センターで膵がんの治療を受けられる方が急速に増加しています。膵臓は胃、小腸、大腸に取り囲まれた位置にあるため、たとえ粒子線を用いても腫瘍全体に高線量を投与することは不可能です。しかし部分的に高線量の陽子線を照射することは可能であるため、今年1月より抗がん剤を併用した治療法を採用しました。今後、治療成績を観察しながら、より安全で効率的な治療法の確立を目指します。



第7回県立病院学会に参加して

総務課長 山重 政司(企画運営委員)

 平成21年8月29日に第7回県立病院学会が甲南大学で開催されました。この学会は「病院構造改革推進方策」の柱の一つである「より良質な医療の提供」の具体的な取り組みとして、従来、職種別に実施されていた研究発表を一本化したものです。

 県立病院で働く様々な職種の職員が、職種の壁を超えて一堂に会し、全体会で基調講演を聴講し、引き続き各職種別の分科会でそれぞれ日頃の勤務で取り組んだ改善項目や、新たな技術改革に結びつくような研鑽の成果をポスター・パワーポイントなどのメディアを使い発表します。
 職種別の分科会で発表された論文の中から、優秀な論文には病院事業管理者より賞が贈られます。

 さらに、その後、全体としてシンポジウムを行い、それぞれ異なる立場・角度から日頃の疑問点などを話し合うことにより、問題点の抽出ができるよう工夫されている学会です。
 私は、今年度の企画運営委員を任されスタッフの一人として参加しましたが、当日は朝8時半に集合し、会場誘導担当として朝から夕方までほとんど立ったままで来場者からの問い合わせへの対応、案内に追われるなど慌ただしい一日を過ごしました。
 私が受けた印象ですが、来場された方々の真摯で非常にまじめに勉強しようとされている姿勢に感銘を受けました。

 今年度、当センターからは看護科の信宮さん、藤原さん、舛田さん、放射線技術科の金本さんの4名が分科会で発表を行いました。
 その発表内容及び参加者の反響等を簡単に紹介します。まず、当日の参加者は約1,000人、9時30分の開会後、11時まで基調講演、11時から15時までが各分科会、15時から17時までシンポジウムを実施し、17時30分に終了しました。


<基調講演の様子>


<分科会の様子>


<基調講演の様子>



1.「 顎関節照射に必発する開口障害予防への取り組み〜早期からの開口訓練の導入〜」について
(看護科主任  信宮 麻貴)

 粒子線を顎関節付近に照射した場合の有害事象として「開口障害」があり、経口摂取困難や会話困難などの苦痛からQOLの低下につながった事例が確認されたことから、その障害を最小限に抑えるために開口訓練を導入した経緯について紹介し、また、訓練に際しては毎食前に5回開口するなどの実施方法や指導方法について、パンフレットを見せながら患者さんに説明したことやその際に苦労したことあるいは、実施した結果の反応などが主な説明内容です。
 参加者からは開口訓練回数についての質問等があり、質疑応答が行われました。


2.「 治療終了後の前立腺がん患者の看護相談〜電話による相談内容の分析と評価〜」について
(看護科主任  藤原 友子)

 当センターで治療終了患者に対して行っている経過観察システムについての紹介と、その経過観察の一手段としての電話による「看護相談」の内容やその際の看護師の役割、患者指導の実際について概略的に説明しました。
 その上でこれまでやりとりのあった4,000件以上の電話相談を疾患別に分類し、最も多かった「前立腺がん患者」の相談内容を類型化し、その分析を行い今後の患者指導に役立てる、と言う内容です。
 治療後にはもちろん患者さんに対して将来的に起こりうる障害についての説明は行っていますが、その時点で障害が出ることはほとんどなく、数ヶ月経ってから障害が現れることも多いことから患者さんに実感がなく、十分な理解を得ることが困難であり、治療中から晩期障害をイメージしながら患者指導すると言うのが、今後の課題であるとの結論です。
 参加者からは、患者さんが電話をかけてくる時間帯は決まっているのかなどの質問があり、質疑応答が行われました。


3.「 放射線皮膚炎に対する皮膚ケアチーム活動の実際」について
(看護科主任  舛田 かをる)

 粒子線の照射によりほぼ全患者に出現する晩期障害として「皮膚炎」があり、程度は様々であるが、その予防や回復を促すには、患者さん自身のセルフケアが欠かせない。そのため患者さんに皮膚ケアの必要性を理解してもらい、退院後も継続したセルフケアができるよう支援することを目的として、医師、看護師による「皮膚ケアチーム」を発足させた取り組みについて説明しました。
 昨年7月からの活動の経緯、皮膚ケアチームの役割、スタッフ教育や現在の実践状況などを説明し、まとめとしては、これらの結果、ケアチームが核となりスタッフ用パンフレットを活用したスタッフへの教育やサポートを行うことで、日々の受け持ち看護師に対するケア基準の浸透や、患者用パンフレットにより患者さんのセルフケア支援につながったが、今後の課題として、患者のセルフケア行動の評価やケアチーム活動の更なる充実が重要であると結びました。
 参加者からは充実の内容は具体的にどのように考えているのかなどの質問があり、質疑応答が行われました。


4.「 粒子線治療における上腹部MRI 検査の有用性」について
(放射線技術科  金本 雅行)

 当センターでは肝がんの治療に当たり腫瘍の精査や治療計画策定のためEOB・プリモビストというMRI造影剤を用いて検査を実施していると説明するとともに、日本における肝がんの中で最も多い肝細胞がんに対して、この造影剤は特に優れた検査性能を有していること、これまでの造影剤ではわからなかった細胞がんの早期の発見につながると言われていることなどを紹介しました。
 また、粒子線や放射線による治療後は肝臓への影響として放射線肝炎が生じることや、通常の放射線治療については、主に局所的な血流量の変化が認められるという報告はあるが、粒子線治療では詳細な報告がないことから、今回、患者さんの協力を得てどのような変化が起こっているのかを調べるため、治療前と治療後に造影剤を投与してからMRI 検査を行い、その結果、実際に粒子線照射範囲に一致した領域がMRI検査によって描き出され、粒子線治療による影響が考えられることを発表しました。
 最後に、MRIは主に形態的な情報を得ることが目的とされていましたが、今後は物理的な評価も可能なのではないかと考えられ、MRIを使った定量評価について検討していきたいと結論づけました。
 企画運営委員として参加し、残暑の厳しい中、朝早くから夕方遅くまで大変な一日でしたが、「手作りの達成感」を味わうこともでき、非常に有意義な学会であったと思います。






照射期間中の癒しのひととき

看護科

粒子線医療センターは、一人ひとりの患者さんの病気に向き合われる姿勢を尊重した医療を展開しています。看護師は皆さんの意志決定プロセスを理解するとともに、有害事象からの苦痛を最小限にできるよう心身のサポートを行っています。


“院長懇話会”
患者さん自身が納得し満足する医療の提供


 当センターでは、粒子線治療を受けられる患者さんを対象に、月2回「院長懇話会」を開催しています。菱川院長による講話“粒子線治療や治療期間中の気持ちのありよう”や患者同士の語り合いと看護師の助言が中心です。
 このことにより、過度な緊張がほぐれ、治療に立ち向かう勇気を持つことに繋がっています。患者さん同士、口づたいに交流会の情報が流れ、好評です。関心がおありの方、是非一度ご参加下さい。



(H21年8月院長懇話会)活発な質疑応答
“ミニコンサート”
癒しの音楽♪で闘病意欲をサポートします


 粒子線照射期間は病気部位によっても様々です。短い場合は約10日、前立腺がんや肝臓がん・膵がんは1〜2か月要します。そのため、平均在院日数は31日と長くなります。治療は「体にやさしく副作用のない治療」というイメージがあります。しかし、実際は照射による皮膚炎・口腔炎など有害事象への対応やそれに伴う心身の負担もあります。治療を継続するために、心と体のエネルギーを多く費やします。私たちは、時に患者さんのオアシスとなりながら、順調な治療遂行を目指しチーム医療の推進と癒しの時間を提供しています。

(H21年6月)
神戸の女性6人コーラス
グループ“宝船”による
アカペラコンサート
(H21年9月)
患者の奥様による“しの笛”
ミニコンサート

命をかけた患者さんの
“こころに癒しのシンフォニー”を
奏でます



粒子線医療センターに赴任して〜人とのつながり〜

放射線科医長 美馬 正幸

 この4月から当センターに赴任しています。以前は国立病院機構の神戸医療センター(神戸市須磨区)で、放射線科業務一般を行っていましたが、放射線治療には週に1日程度従事していました。
 このたび、当センターに採用され、放射線治療の経験を積み、将来、放射線腫瘍医として、がん治療に携わっていけたらと考えています。
 粒子線という特殊な物理特性を持った放射線を使用する治療を目のあたりにして、がんに侵され苦しんでいる患者さんに対して、最先端の機器を使用し、医療技術を駆使して、がんを良くする治療として感動とともに、魅力も感じております。
 今まで医療に携わってきて、強く感じたことは、「人とのつながり」が大切ということです。患者さんにも十分な説明を行い、理解と納得をして頂き、良いコミュニケーションがとれて、信頼関係を築くことが治療に非常に重要と考えます。患者さんの協力なくして、治療を遂行することや治療の効果も望むことはできないと考えています。
 また、がん治療はチーム医療です。周囲のスタッフ、すなわち医師、技師、看護師、薬剤師、事務と密に連携をとり、一つの治療(がんを良くすること)を行うことができます。その過程でより良い治療法を模索することや患者さんの病態を伺ったり、治療計画の修正、今後のことについて話し合ったり、患者さんの環境を整えることが必要になってきます。その際、周囲のスタッフと良い関係を築いていると非常にスムーズそれらのことを行うことができます。
 今後も、「人とのつながり」を大切にしながら、粒子線治療の発展に頑張って行けたらと考えています。



おいしく食べられるように

管理栄養士 岡野 千夜子

 私はこの9月末より当センターに栄養士として勤務しています。以前は社会福祉施設に勤務しており病院での業務は初めてになります。
 勤務してすぐ、摂取量が低下していく患者さんを多く見かけるようになりました。以前、勤務していた所でもよく見かける光景でした。少しでもいいから食べてもらいたいという一心で向き合ってきました。1人ずつ、「食べたくない」「食べられない」という原因は違います。その都度お部屋を訪問し、お話を聞きました。そしてその会話の中から原因を見つけ出し、食事形態の変更、とろみ剤の使用、そして食べたいと思う物の提供などさまざまな取り組みを行いました。
 その結果、「○○なら食べられた」「ミキサー食にすると食べられた」という声を聞くようになりました。その時は患者さんより私の方がうれしかったかもしれません。その後体も徐々に元気になりADLも向上していきました。食事に全介助が必要だったご高齢の方がスプーンを持って自力摂取ができるまでに回復したときには全職員で喜んだのを鮮明に覚えています。
 口から美味しく食べることは元気な人には当たり前のことですが、患者さんにとっては難しいことになる場合が多くあります。食べることを苦痛に感じ悲観的にさえなることもあります。今は毎日が勉強です。患者様の状態を見守りながら、少しでもおいしく食べられる方法を他職種の方の協力を得ながら、栄養士として精一杯サポートしていきたいと思います。




兵庫県立粒子線医療センターで研修して

鹿児島大学 有村 健

 兵庫に研修に来てから早1年が過ぎました。思い返せば、実にあっという間だったと感じています。しかし、私にとっては激動の1年であり、かけがえのない貴重な1年だったと考えています。紙面を借りて、ご指導下さった多くの先生方やスタッフの方々に心よりお礼を申し上げます。
 当初は、鹿児島大学の一員として、指宿に建設予定の粒子線治療施設「メディポリス」を側面からサポートする目的での研修でありましたが、気が付けば、いつの間にかメディポリスの立ち上げに全力を傾ける自分がいました。それはこの研修で、粒子線治療の重要性を身にしみて感じたからに他ならないのです。
 兵庫県立粒子線医療センターは多くの点で、これまでの病院の概念を大きく覆しました。病院の立地、設計、システム化されたカルテや治療患者の情報管理などがその例です。大型施設を必要とし、また患者に対しては比較的障害の少ない粒子線治療施設ならではの着想ですが、今から十年も前に、このような構想を練り、しかも公共の施設としてこれを実現し、成功させている先見性と情熱にこそ、私は最大の敬意を払いたいと思います。
 粒子線はX線にない物理特性を有し、癌細胞殺傷効果も高く、既に成熟しきったX線治療に比べ、粒子線治療の伸びしろは非常に大きく、今後益々発展していくものと思われます。花で例えるなら、今の粒子線治療は‘咲き始め’でしょうか。X線治療は只今‘満開’に咲き誇っていますが、そのうち粒子線治療に取って代わられる可能性もあり得ない話ではないと思います。
 私は、鹿児島大学に戻り、放射線治療を行う傍ら、学生を中心に粒子線治療のすばらしさ、可能性を日々説いています。私自身も、来年の春にはメディポリスの立ち上げに本格的に参加する予定です。今後は、兵庫県立粒子線医療センターの卒業生としての誇りを胸に、粒子線治療の更なる発展に、我が身を捧げたいと思っています。




医療トピックス

 財団法人ひょうご科学技術協会では、兵庫における科学技術の振興を通じて、県民生活の向上と地域社会の活性化に貢献することを目的として、平成4年7月から、県内に在勤または在住する研究者を対象に、自然科学分野に属する各種の研究助成を実施しています。
 この度、当センター放射線科の出水医長(放射線腫瘍学・粒子線治療学)の研究テーマが、平成21年度研究助成事業として採択されました。


研究テーマ 粒子線治療患者検体の遺伝子解析によるテーラメイド治療の確立
究の背景と意義 粒子線治療(陽子線・炭素線)患者の検体を遺伝子解析し、遺伝子発現と治療の効果・副作用との相関関係を明らかにすることにより、治療前に粒子線治療の効果・副作用を予測して最善の治療法選択を行うテーラメイド治療の確立を目指す。