
CONTENTS
■□ 粒子線治療 −現状と将来−
■□ 兵庫県立粒子線医療センターにおける粒子線治療の現状
■□ 治療計画部門
■□ 外来部門
■□ 病棟部門
■□ 臨床QA部門
■□ 粒子線治療技術の向上を目指して
■□ 物理を患者さんのために
■□ 歯科連携による口腔ケアの向上に取り組んで
■□ 薬剤師の役割
■□ 粒子線トピックス 『よりよい粒子線医療を目指す勉強会』
粒子線治療の普及
当センターにおける昨年度の治療患者数は685名と過去最高を記録した、と同時に経営面でも初めての単年度黒字化となりました。全国各地から、また海外からの患者さんも着実に増加しております。全国および当センターの実績からみても、粒子線治療が徐々に医療界に浸透し普及してきたのであろうと実感しております。
現在、全国9カ所の施設において粒子線治療が可能です。さらに、現在新たに5施設が建設中あるいは設計段階にあり、近年中に14施設において稼働することになります。当センターが開設された2001年当時は、日本に4施設しかありませんでしたので、この10年間で粒子線治療施設数・治療患者数も加速度的に増加してきた事となります。全国各地でこの治療法を受ける機会が増えてきたことから、厚生労働省においても粒子線治療の保険診療化について検討がなされつつあります。近い将来、一部の疾患に限定されるとは思いますが、保険診療が実現するだろうと思われます。
切らずに治す癌治療の実現
粒子線治療は、早期の肺癌や前立腺癌に対して切らずに治す癌治療法と期待され発展してきました。当センターでも開院当初から、「比較的早期の原発がんを第一の適応とする」という理念のもと、多くの患者さんの治療を行ってまいりました。その治療成績は良好で、各関連学会において学会発表を行い、また世界的に評価の高い学術誌への掲載を通じて、「粒子線治療は手術に取って代わる治療法」になり得ることを報告してまいりました。
粒子線治療の特性
しかし、早期の原発癌(その臓器から発生した癌)に対する低侵襲的な治療法は、粒子線治療の専売特許ではなくなってきました。すなわちX線を用いた定位放射線治療、強度変調放射線治療(IMRT)、あるいは小線源治療など放射線治療の分野の発展だけではなく、ラジオ波治療、内視鏡的治療などの多くの治療法が台頭してくる時代となっています。粒子線治療は小さな腫瘍だけではなく、比較的大きな局所に限局した腫瘍においても根治的な治療が行えることが特長です。しかし、一般に腫瘍は大きくなると局所だけに止まらず、領域のリンパ節転移や遠隔転移が生じやすくなります。そのため粒子線治療単独では十分な効果を発揮できないため、抗がん剤や手術など他の治療法との併用療法、いわゆる集学的治療が必要となってきます。
たとえば、当センターで約2年前から本格的に進めている局所進行膵癌に対する抗がん剤併用陽子線治療においては、従来の抗がん剤単独や抗がん剤併用X線治療の成績と比較して、2倍以上良好な結果が得られる事がわかってまいりました。局所の腫瘍制御に秀でた粒子線治療を全身化学療法と共に用いることによって、よりよい治療成果をもたらす治療法を提供し得るものと考えております。
当センターの粒子線医療
当センターが開設された10年前とは、随分様相が変化してきました。一言で言うと量的に増加し、質的に複雑化してきました。
そのため、当センターの医療の業務も、治療計画部門、外来部門、病棟部門、臨床QA(QA:quality assurance質的保証)部門の4部門に区分し、各部門長に4名の経験のある医長に担当してもうこととしました。各医療スタッフが連携し、高度な専門性の追究と日々の自己研鑽を重ねることで、質の高い医療の提供を目指しています。
病棟部門では一時廃止していた主治医制を復活させています。臨床QA部門は経過観察を充実させ、その成果を治療計画部門に反映させるようにしています。
これからの粒子線治療
機器の小型化と低価格化に伴い、今後、粒子線治療は多くの大学病院やがんセンターの放射線治療装置の一つとして、広く導入される時代となるでしょう。そこでは早期癌だけでなく、肺、食道、膵などから発生した局所進行癌の治療に適用されると思われます。それには放射線科だけでは不可能で、他の診療科との協力体制が必要とされるでしょう。一方、スキャンニングに代表される次世代の粒子線治療装置も、さらに安全で高精細な治療の実施に必要となります。
技術の発展と各診療科との協力体制を強化することにより、より安全で確実な粒子線治療を、より多くの、より病状が進行した患者さんにも受けていただけるよう、努めてまいりたいと思っています。
1.治療実績(2011年3月末時点)
当センターでは、2003年4月の一般診療開始から2011年3月までの8年間に3,900名の患者さんに治療を行ってきました。代表的な疾患の傾向と現状について述べたいと思います。
(1)頭頸部がん
2008年度までは右肩上がり、2009年度にやや減少し、2010年度はほぼ横ばいでした。しかし、それでも第3位であり、粒子線治療の適応となる代表的疾患であることに変わりありません。組織型別では、悪性黒色腫、腺様嚢胞がん、扁平上皮がんが三大組織型で、全体の8割以上を占めます。しかし、最近、扁平上皮がんの治療成績が思っていたほど良くないことが明らかになってきており、適応の見直しを検討しているところです。扁平上皮がんの治療数減少が頭頸部がんの治療数減少につながっています。
(2)肺がん
ゆっくりではありますが、増加傾向にあり、2005年度以降は第4位を保っていましたが、急伸してきた膵がんに抜かれ、2010年度は第5位となりました。I期がんはX線(通常の放射線)での定位放射線治療が保険適応となっておりますので、そちらを選ぶ患者さんも増えてきていますが、腫瘍径が3cmを超えるT2は粒子線治療の方が良いというデータや重篤な放射線肺炎は粒子線治療の方が少ないというデータも出ています(いずれも日本放射線腫瘍学会で当センターから発表)。さらに、当センターでは7cmを超える巨大腫瘍や胸壁浸潤などのT3も積極的に治療しています。
(3)肝がん
近年、患者数の増加が著しく、2008年度から第2位となっており、前立腺がんに追いつきそうな勢いです。局所制御率が約9割と高い治療効果を期待できることが外科や内科の先生にも知られてきたからか、通常の根治的治療(手術やラジオ波焼灼術)が難しい患者さんが数多く紹介されてきます。上記肺がんと同じく、X線での定位放射線治療が保険適応となっておりますが、ウイルス性慢性肝炎や肝硬変がベースにあり、肝機能が良くない患者さんが多いので、正常肝への影響がより小さい粒子線治療の方が有利な疾患です。特に5cmを超える巨大腫瘍では粒子線治療の独壇場と言えます。
(4)膵がん
2007年度までは合計でも24名でしたが、2008年度に塩酸ゲムシタビンを同時併用する臨床試験を開始してからの増加はすさまじく、2010年度は79名と頭頸部がんに並ぶ第3位に躍り出ました。膵がんは難治性がんとして知られており、膵がん患者さんの粒子線治療に対する強い期待の表れと言えるかもしれません。従来の化学療法単独あるいはX線を使った化学放射線療法をはるかに上回る良好な結果が得られつつあり、その論文を一流英文科学誌に投稿中です。
(5)前立腺がん
一般診療開始以来、一貫して第1位で、これまで1,400名以上を治療してきました。大部分の患者さんにおいては、治療効果・副作用とも期待された通りの優れた結果が得られていますが、一部の非常に進行した(PSA>50ng/mlまたはT4)患者さんにおいては満足できる結果とは言えませんので、線量増加を行い、治療効果・副作用を注意深く見ているところです。
(6)骨軟部腫瘍
肉腫と呼ばれる難治性悪性腫瘍の代表です。稀な疾患ですが、粒子線治療以外に有効な治療法がない場合も多く、全国から患者さんが集まってきます。近年は年間20〜30名で推移しており、第6位となっています。組織型別では、脊索腫、骨肉腫、軟骨肉腫などが多くなっています。骨や筋肉にでき、かつ高線量が必要な腫瘍なので、皮膚障害や神経障害が問題となっておりましたが、近年は治療計画の最適化や皮膚ケアの進歩でそういった障害は減ってきております。
2.陽子線と炭素イオン線の使い分けについて
当センターは世界初の陽子線・炭素イオン線の両方が使用可能な施設として2001年に開院しました。当初はいずれかしか使用できない時期がありましたが、2005年4月からは両方が使えるようになり、症例ごとに適切と思われる線種を選択してきました。しかし、それぞれの先行施設からプロトコールを採用したため、陽子線と炭素イオン線で線量および回数が異なっており、また、360°回転するガントリーが使えてX線のような治療計画が作りやすい陽子線が頻用され、逆に骨軟部肉腫には炭素イオン線のみが用いられていた時期がありました。上記のような条件下でのこれまでの臨床成績の解析結果からは、治療効果・副作用とも陽子線と炭素イオン線に明らかな差を認めていません。
2008年度からほとんどの疾患において陽子線と炭素イオン線の線量および回数を揃え、患者さんごとに陽子線・炭素イオン線両方の治療計画を行い、より良い方を選んでいますので、安心して治療をお受けください。
患者さんにどのように照射するのかコンピューターを用いて計算することを"治療計画"と言います。その治療計画を行う部門ですが、医師・医学物理士・診療放射線技師で構成されています。チーム医療の典型とも言える部門で、各職種の専門性を生かして患者さんごとに最適な治療計画を作成しています。
【医師】
患者さんの診察や検査を行い、照射ターゲットをコンピューター上で設定します。照射線量(がんに当てたい線量)や許容線量(正常臓器に当たってもよい線量)を決定し、医学物理士や診療放射線技師に指示します。
【医学物理士】
装置や照射の品質管理を行う物理学の専門家ですが、ビームの特性を熟知しているので、治療計画にもその知識を生かして、最適なビーム配置を立案します。また、各種実験を行い、新たな照射法の開発も行います。
【診療放射線技師】
固定具の作成や画像検査、照射を行う職種ですが、治療計画にも参加し、医学物理士と同様にビーム配置を立案します。実際の現場を一番よく理解しているので、それを生かした助言を行います。
こうして作成された治療計画は、医師・医学物理士・診療放射線技師・看護師が参加する毎朝のモーニングカンファレンスで討議されます。必要であれば修正が加えられ、最終的に全員が納得すれば承認されます。
また、重大な副作用が発生した場合は、治療計画部門ミーティングを開いて治療計画に問題がなかったか検証し、改善策を検討しています。
治療計画部門は粒子線治療の"頭脳"に相当すると考えています。患者さんから直接は見えませんが、よりよい治療が提供できるよう日々頑張っていますので、そのような部門があることを知っていただけましたら幸いです。
当センターには毎日40〜50名程度の患者さんが外来に来られます。主には通院で照射を受けておられる患者さんですが、その他には初診(セカンドオピニオン含む)、照射開始前の検査そして照射後の経過観察を目的に来られる患者さんです。
1.外来通院での照射
当センターには全国から患者さんが来られることもあり、入院希望の方が多いですが、残念ながらすべての方に入院していただくのは難しい状況です。重症の方に優先的に入院していただくために、前立腺がんの方については原則として通院治療とさせていただいています。希望の方には当センターの連携病院(佐用協立病院、相生市民病院、龍野中央病院、石川島播磨病院)に入院していただき、通院で照射を受けていただいています。照射中は定期的に診察を受けていただくこととなっています。
2.初診(セカンドオピニオン含む)
当センターに受診の際にはあらかじめ主治医の先生からFAXで診療情報を提供いただき、粒子線治療の適応となる可能性のある方に実際に診察に来ていただいています。適応のまったくない方に、遠方から来院していただく無駄を省くためにこのようなシステムとなっています。適応の有無にかかわらず、専門医の意見が聞きたい方はセカンドオピニオンを随時受け付けています。
3.照射開始前の検査
治療の開始前にはすべての方に2日間の検査を受けていただきます。検査の内容は疾患によって異なります。この検査の結果で最終的な治療の決定が行われます。
4.照射後の経過観察
粒子線治療後の定期的な診察や検査は基本的には紹介元の病院でお願いし、患者カルテを用いた当センター独自の経過観察を行っています。その中で何か問題が生じた場合や患者さんの希望によっては直接来院していただき、専門医による診察を行っています。
当センターでは外来照射の定期診察以外は基本的には予約制をとり、患者さんに満足いただけるような診療を心掛けています。しかし、限られたスタッフで運営している関係上、予定通りにいかずに患者さんにご迷惑をお掛けすることもあります。このような状況を少しでも解消すべく、今年度からは外来クラークを設置し、診療を適切かつ円滑に行えるように努力をしていま
当センターの入院病床は約40床あります。ほとんどの場合、粒子線治療そのものは入院を必要とするほどの副作用や合併症はありません。しかし、最近は粒子線治療の認知度が高まってきたことや、治療の適応が拡大されてきたことで、進行癌や高齢者への治療が増えており、それに伴い、入院が必要となる患者さんが増えています。当センターでは医師の人員数の変動や病棟以外の業務の増加に伴い、しばらくの間、病棟主治医という制度ではありませんでしたが、より重症の患者さんに細やかな医療(粒子線治療も含めた総合的な医療)を行うため、2011年11月より病棟主治医制を開始しました。
現在入院しておられる患者さんを疾患別に見ると、頭頚部癌、肝臓癌、膵臓癌、骨軟部腫瘍が大部分を占めます。特に膵臓癌は化学療法を行うことや、粒子線治療による副作用も比較的多いことから、入院が必要です。また肝臓癌は肝炎や肝硬変などの癌以外の基礎疾患に対する治療が重要になるため入院が必要となる場合が多く、頭頚部癌の場合には粒子線治療の副作用による口内炎や皮膚炎などの治療が必要なため、やはり入院加療が重要です。今後はさらに様々な患者さんを受け入れることが出来るようにさらなる改善に努めていきたいと考えています。
当センターは粒子線治療専門病院であるため、一般病院の入院病棟と異なり、多種多様な癌の患者さんが同じ病棟に入院しています。全ての患者さんが「癌」という困難な病気と戦っておられることから、患者さん同士での励まし合いや情報交換などがさかんに行われており、それによって勇気づけられている患者さんも多いのではないかと思います。反面、我々医師や看護師は様々な病気に精通していなければなりません。特に粒子線治療のような先進的な治療を行っていると、当初は分からなかった副作用などが明らかになる場合があります。時に非常に困難な状況に出会いますが、それらを一つ一つ乗り越えてきたことによって世界に通用する粒子線治療専門病院になってきたのではないかと思います。我々病棟のスタッフ一同、今後も真摯に研鑽を積み重ね、さらに良い病院にしていきたいと考えております。
臨床QAの意味とその目的
臨床QAとは、臨床的な質を保証するための臨床的なあらゆる活動を指します。その結果、当施設で治療を受けた方、今後受ける方に、より良い粒子線医療を提供する事が臨床QA部門設立の目的です。
臨床QAの活動
(1)自施設の治療/治療後の情報を収集
(2)自施設の結果を解析、評価する。
(3)結果を国内外へ発表し、評価を受ける
(4)その結果を自施設の日常診療へ反映、現在の治療法の改良、次世代の治療法の開発を行う
この活動には、すべての業種が携わっています。
特に重要なのが、治療後の情報つまり経過観察で、これが臨床QAにおけるすべての判断の源となります。当施設の状況(立地、放射線科単科、治療専門施設、医療圏が全国)に対応するため当施設の独自の経過観察方法(Myカルテ(旧:患者カルテ))で、患者さんにもご協力をいただきながら、情報収集を達成しております。
院内の組織としては、粒子線治療に精通した看護師チームで構成された経過観察室が患者さんの直接的な窓口です。メールや電話などで相談の対応、情報の収集にあたっています。また診療情報は経過観察専門の事務部門で処理を行い、その結果を医師が中心となって評価しています。トラブルが発生した際には可能な限り直接の面談が必要と考えており、当施設へ来院いただき診察、画像など諸検査を行っております。
また結果をまとめるだけではなく、皮膚や口腔ケアといった副作用軽減の積極的な活動も臨床QA部門の大きな役割で、各科専門医師を交え看護チームを中心に行っております。さらに積極的に副作用治療に携わるべく高気圧酸素治療の推進(上ヶ原病院など他院との連携)、他施設他診療科(形成外科、口腔外科など)へ直接訪問を実施し、連携を構築することで単科病院のデメリットをカバーするよう努めています。
経過観察の目的は二つ、@病気に対する粒子線の効果を評価、A粒子線による副作用の発生状況を把握すること。優れた治療法と評価されるには、効果が優れ、副作用が少ないことを兼ね備えていなければなりません。まだ臨床QAの活動は始まったばかりですが、これまでにない新しい考え方、方法で目的を実現していきたいと思います。
放射線技術科は、大学院生3名を含む16名の放射線技師で治療部門・計画部門・診断部門・放射線安全管理・放射線品質管理・医療情報管理などを担当しています。
【粒子線治療室】
治療室は、ガントリー2室と固定ポート3室(45度・垂直+水平・水平)合計5室で陽子線・炭素イオン線治療合わせて、年間約700例の治療を行っています。1日の治療件数は80〜90件です。治療にかかる時間は、1人あたり10〜20分程度です。治療室1室に放射線技師2名+装置運転員1名の体制でできるだけ効率よく治療ができるようにしています。
【治療計画室】
治療計画装置4台とフュージョン端末、治療計画用ワークステーションがあります。
医師1名・放射線技師2名、物理士2名で計画を行っています。計画作成には約2日を要します。毎日各部門のスタッフが集まってカンファレンスが行われ治療計画を承認します。ここで治療装置のビーム形成機器の設定値が決定します。治療装置は、設定値どおりに動作するように制御され、日々の治療が、安全に行われていきます。
治療計画の承認が行われると治療時間のスケジューリングやボーラス加工・新患測定・治療リハーサルと治療の行程が進んでいきます。
【CT室】
治療計画用・診断用CTを撮影します。
治療計画用CTでは、フラット天板で治療用の固定具を体に装着して撮影します。
呼吸同期CT撮影に対応しており、自然呼吸下で呼気のCT画像を取得できます。
またCT室では、治療体位を安定させるための固定具を作成しています。体表面を3Dモデル化するカメラが設置されていて計画データと体表面をフージョンして計画を作成することができます。
【MRI室】
治療計画用・診断用MRIを撮影します。
治療計画用MRIでは、呼吸同期の撮影を行い、CT画像と重ね合わせて腫瘍の輪郭を明確にするフュージョン用の画像を取得します。
【X−TV室】
胸部・腹部領域は、呼吸で腫瘍が移動します。移動量をX−TVで計測します。
計測された移動量から治療範囲に余裕を設定します。
【一般撮影室】
FPD撮影装置があります。
おもに胸部・腹部の撮影を行います。
各技師とも日々研鑚し、粒子線治療技術の向上と、より良い治療の実現を目指しています。
放射線物理科について紹介します。ほとんどの病院ではこのようなセクションは無いでしょう。超巨大な最先端の放射線発生装置を有する粒子線治療施設だからこそ必要なセクションです。業務は、主に治療計画作成、治療の品質管理、装置の保守管理、研究開発となっています。
●治療計画作成
治療の仕方は患者さんそれぞれで違います。患者さんのCT画像を基にコンピュータでシミュレーションを行いどのように治療するかを決めます。これが治療計画です。医師・放射線技師と協力し医学物理士の観点から計画作成を行っています。

治療計画作業中 |
●治療品質管理
最先端の治療と雖も治療の品質はチェックされるべきです。治療計画で決定されたパラメータに問題が無いかどうかをチェックします。またメーカの運転技術員による測定を行い問題がないことを確認します。治療に使われる器具(ボーラスなど)は三次元測定器を使い検査します。これらの作業のため治療開始まで患者さんには3日ほど待ってもらうことになります。

運転技術員による測定 |
●装置保守管理
粒子線治療装置は10万点以上の部品から出来ています。各部品が10年の寿命を持っている(10年に1度壊れる)と仮定すると約1時間に1点の部品が壊れることになります。もちろん10年以上の寿命を持つ部品がほとんどなのでそんなことは起きませんが、しかし結構な頻度でトラブルは発生します。その改修や保守をメーカである三菱電機が行います。改修ミスや保守に問題がないことを確認し、またトラブルが迅速に解決されるよう管理を行っています。

10万点以上の部品からなる粒子線治療装置の一部 |
●研究開発
最先端の粒子線治療装置も10年が経過しました。10年の間に様々な技術が世界中で開発されてきています。今後の10年においても最先端を維持し続けるために、装置の更なるアップグレードを目指して研究開発を行っています。
頭頸部領域の粒子線治療において、治療開始前から適切な歯科的介入と口腔ケアを開始し、治療中・治療後も継続することは、合併症の軽減につながるといわれています。この10年間で頭頸部の粒子線治療を受けた患者さんは400名を超え、当センターでも歯科医との連携が行えるように調整を行ってきました。このたび2010年8月から宗行第二歯科との連携が開始となり、これまで以上に専門的な介入ができるようになりました。
歯科連携の内容
〈照射開始前〉
・当センターからの紹介で歯科受診
・口腔内評価
歯周病、齲歯、予後不良歯のチェック
・口腔ケア・歯科治療の実施
歯石除去、齲歯治療、金属冠除去、抜歯等
・口腔内合併症の説明とセルフケアの指導
〈照射期間中〉
・治療中の口腔内の評価(訪問歯科診療)
・口内炎の評価とセルフケアの指導
〈照射終了時〉 
・退院指導
・かかりつけ歯科医への情報提供
口腔ケアの継続と歯科処置の依頼
〈照射終了後〉
・晩期有害反応のフォロー
歯科連携が始まったことにより、患者さんは照射を受けるのに適した口腔状態に整えた上で、治療に臨むことができるようになりました。
照射期間中は、定期的な歯科診療を受けることで、私たち看護師の日々の観察やケアに加え、より専門的な個々の症状に応じた口腔ケアと指導を行うことができるようになりました。
照射終了時には、有害事象予防のため退院指導を行うとともに、粒子線治療後も口腔ケアを継続するために、患者さんのかかりつけ歯科医への情報提供も行われます。また粒子線治療後の晩期有害反応に対しても、経過観察窓口を通して看護相談を受け、当センターの医師・看護師・連携歯科医協働で取り組むことができるようになりました。
これらの取り組みが、患者さんの苦痛の軽減やQOLの低下を防ぐものとなれるよう、今後も努力していきたいと思っています。
治療後の口腔内の有害事象を予防するには,かかりつけ歯科医を持ち,定期的な診察と歯石除去などの処置を続けることが大切です。
◆宗行第二歯科医院◆ 
〒678-0001 兵庫県相生市山手2丁目252
Tel: 0791-23-0321 Fax: 0791-22-1703
連携歯科医:宗行 彩先生
自然環境に恵まれた風光明媚なこの地、粒子線医療のパイオニアであり、世界的にも最高水準である当センターに、薬剤師の役割とは?求められていることは?そんな思いを胸に、平成23年4月着任しました。実際には、患者さんのがんの進行度合いや全身状態の程度も想像以上で、痛みをコントロールしながら治療を受けておられる方も多くおられました。この施設への期待の大きさが伺えました。
平成22年4月の厚生労働省医政局長通知では、「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進」が推奨され、薬剤師においても治療計画への参画、積極的な処方提案、薬学的管理(投与量・副作用・相互作用確認、服薬指導等)、抗がん剤調製等々、その期待と役割はますます高まってきています。小規模施設が幸いしてか当センターは横の繋がりが厚く(多職種間の親交が深い)、チーム医療には最適な環境にあると言えます。
当薬剤科においても、歴代薬剤科長のご尽力もあり、入院・外来全ての患者さんの持参薬鑑定を行う等、薬剤師の職能を活かした取り組みを行ってきました。3年前には抗がん剤の調製も開始しました。また、先に記したように身体状況が良くない患者さんも多く、粒子線治療の面だけでなく全てを把握し、QOLを保ちながら治療を行っていく必要があります。薬剤科も粒子線副作用対策、合併症・持病に対する薬剤への対応、麻薬・血液製剤の取り扱い等日々めまぐるしく過ごしています。
今年度は、特に、がん疼痛管理への参画(治療計画、患者指導等)、抗がん剤併用療法の安全管理(調製環境、処方オーダ方法改善、治療計画確認等)、粒子線による口内炎への新たな対策(患者自己管理能力を活かした胃粘膜保護剤の応用)等に力を注いでいます。患者さんを中心に、医師、看護師、放射線技師等の医療スタッフとのコミュニケーションを大切にし、検討しながら行っています。
今後は、持参薬鑑別や配薬のみならず、全ての患者さんの薬学的管理を行うことを課題にかかげています。そのためには薬剤科の拡充も必要ですが、一歩ずつ踏み出して、薬剤師としての役割を十分に果たして行きたいと考えています。
当センターでは、粒子線治療の質の向上を目指し定期的に各分野の専門の先生をお迎えし勉強会を開催しています。
平成22年11月の第1回から、回を重ねて11回の勉強会を開催しました。
これまでの実績を一覧表にて紹介します。
回 |
開催日 |
講 師 |
演 題 |
第1回 |
22.11.12 |
東京医科歯科大学整形外科 講師(高気圧酸素治療部長) |
柳下 和慶 |
|
高気圧酸素治療の臨床と放射線治療について |
第2回 |
23. 1.17 |
|
OCTの原理とOCTを用いた粒子線照射によるヒト皮膚障害の観察 |
第3回 |
23. 4.28 |
名古屋市健康福祉局 主幹(陽子線がん治療施設事業担当) |
荻野 浩幸 |
|
MDアンダーソンがんセンターにおける陽子線治療の現状 |
第4回 |
23. 5.30 |
|
高精度放射線治療に対するソフトウェア的アプローチ |
第5回 |
23. 7. 4 |
神戸大学医学部附属病院肝胆膵外科 准教授 |
福本 巧 |
|
PIHPの現状及び粒子線治療との併用の可能性について |
第6回 |
23. 8. 8 |
|
がん治療における形成外科の役割 |
第7回 |
23.10.17 |
|
島根大学における放射線治療の取り組み |
第8回 |
23.11.24 |
順天堂大学医学部放射線医学講座 非常勤助教 |
齋藤 明登 |
|
ワシントン大学における医学物理研修 |
第9回 |
23.12.12 |
放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院 治療課長 |
辻 比呂志 |
|
前立腺がんに対する重粒子線治療 |
第10回 |
24. 2.13 |
神戸大学大学院医学研究科放射線腫瘍部門 特命准教授 |
佐々木良平 |
|
放射線治療に関連するTranslational Research |
第11回 |
24. 2.20 |
国立循環器病研究センター研究開発基盤センター 予防医学・疫学情報部室長 |
西村 邦宏 |
|
後ろ向き研究と治験の間のGAP
〜Propensity score matchingと前向き研究の諸問題について〜 |
|