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第01号



CONTENTS

■□ 粒子線治療の新時代

■□ 兵庫県立粒子線医療センターにおける粒子線治療の現状

■□ 外来部門

■□ 病棟部門

■□ 粒子線治療の向上を目指して −シンクロトロン加速周期の短縮―

■□ VME

■□ がん放射線療法看護認定看護師教育課程を修了して

■□ 粒子線医療における薬剤業務の進展

■□ 施設案内




 粒子線治療とは聞きなれない言葉と思いますが、放射線治療の一つに分類されます。最近ある一般向けの月刊誌に通常の放射線治療と粒子線治療との間に大きな差はないとの記事が出ましたが、30年近くX線治療に従事し、その後に粒子線治療を経験した専門医としては両者の間には大きな差があるというのが正直な実感です。
 最初に従来の放射線治療との比較から見た粒子線治療の有用性について、次に重粒子線治療と呼ばれる炭素線治療と陽子線治療の違い、最後に粒子線治療の展開について述べたいと思います。

1従来の放射線治療(X線治療)との比較から見た粒子線治療の有用性について
 従来の放射線治療であるX線治療との比較では粒子線治療は線量分布のシャープさ、癌細胞への殺細胞効果の高さは明らかに良好であり、臨床上の有用性は明らかと考えます。
 例えば、進行食道癌の標準治療はX線治療と化学療法(抗癌剤)の併用治療ですが、X線治療では心臓、肺への被曝は避けらず、その副作用による治療後の死亡率は10%前後と言われています。
粒子線治療では心臓、肺への線量を減らすことが可能になるため、副作用が減るだけでなく、腫瘍への投与線量が多くできるため、良好な治療成績が得られます。
現時点ではともかく、将来の食道癌の非外科治療での標準治療は粒子線治療になることは間違いないものと思います。図1に実際の症例でのX線での放射線の分布と図2に陽子線治療の分布を示しますが、心臓へ当たる放射線の量が違うことが良く判ると思います。
 また他の頭頚部癌、肺癌、肝癌、前立腺癌においてもその有用性は明らかであり、放射線治療機器としての有用性は明らかです。またその対象となる症例の範囲はX線治療よりも広いと断言して良いと思います。
 米国では小児癌への標準放射線治療は陽子線治療になってきており、今後、10年あるいは20年後には多くの癌治療の放射線治療の標準治療は粒子線治療にシフトすることは間違いないものと思います。
 がん細胞を消滅させるには遺伝子の本体であるDNAを切断する必要がありますが、X線治療は光の力で切断するのに対し、粒子線治療では粒子が直接切断するため、その効果は高いとされ、X線治療抵抗性の悪性腫瘍にも有効と考えられています。





2 陽子線治療と炭素線治療の違いについて
 兵庫県立粒子線治療センターは炭素線治療と陽子線治療の2種類の粒子線治療での治療が可能になった世界最初の施設です。最近ドイツ(ハイデルベルグ)でも両方の線種での治療が可能な施設が建設されましたが、当院が最も多くの治療経験のある施設であることには変わりはありません。
 炭素線治療と陽子線治療の違いについて説明しましょう。炭素は陽子の12倍重く(炭素線治療は重粒子線治療と呼ばれる所以です)、そのためDNAを切断する力も強いとされています。つまりRBE(relative biological effectiveness)は炭素線の方が高いとされています。RBEとは簡単に言いますとX線治療の殺細胞効果を1とすると、ある物質に対し、同じ吸収線量を照射した場合、どれだけ細胞が死んだかを表す指標です。陽子線治療のRBEは1.1-1.2、一方で炭素線治療は2-3と言われており、同じ量の放射線を照射した場合、炭素線では2-3倍DNA切断能が高い、つまり治療効果が高いことを示しています。
 しかし、RBEとはある種の腸管細胞(正常組織です)や、ごく限られた腫瘍での結果であり、全ての腫瘍にこのRBEの結果が当てはまることではありません。また注意すべき点として、放射線治療で重要なことは腫瘍の周囲には正常組織があり、粒子線の場合でも正常組織の障害を加味しないで治療する訳にはいきません。例えば悪性脳腫瘍の場合、腫瘍のRBEが2-3としても、正常脳組織のRBEが3-4であれば、腫瘍周囲の正常脳組織の障害が強く、治療として成立しなくなります。悪性脳腫瘍の場合は正常脳組織への浸潤が強く、正常脳組織もある程度含めて照射することになり、炭素線よりはむしろ陽子線の方が理にかなった治療になります。
また食道癌では食道の壁が薄いため、障害の点で炭素線治療は向いていない可能性があります。進行肺癌の場合においても、腫瘍の横に太い血管、気管支があるため、炭素線より陽子線の方が正常組織への障害を考慮すると好都合と考えられます。
 一方で腫瘍周囲の正常組織の障害を加味しなくて良い場合、例えば肝あるいは肺の末梢部分で、比較的小さな腫瘍では充分量の炭素線治療の照射が可能であり、その特性が生かせることになります。では、これらの病変に陽子線治療は効果が乏しいのか。残念ながら答えはNoです。まだ陽子線治療と炭素線治療の治療効果の違いについては良く判っていないと言って良いでしょう。
 兵庫県立粒子線治療センターでの線種の選択は患者さんごとに治療計画を行い、陽子線治療を炭素線治療が良いのか複数の医師が検討し、最良の線種を選択しています。
その結果、同じ癌でもある患者さんは陽子線治療が、ある患者さんには炭素線治療が選択されています。同じ癌であっても治療結果に違いは認めていません。頭頚部癌の悪性黒色腫のみに絞った比較においても差はありませんでした。悪性黒色腫は代表的な放射線抵抗性腫瘍であり、理論的には炭素線の利点が出ても良い腫瘍のはずです。   現在、患者さんに協力して頂き、患者さんの不利益にならないと判断された場合のみに無作為に線種を決めて治療をしています。現在は肝臓癌について行っていますが、今後は頭頚部癌、肺癌でも行う予定です。
 RBEでは陽子線治療よりも炭素線治療の方が良いことを説明しましたが、陽子線治療の利点としては回転ガントリーが使用できることです。図3が回転ガントリーですが、様々な方向から照射ができる装置です。一方で炭素線治療はこの回転ガントリーでの治療はできないために照射方向が制限されており、照射方向の自由度の点で劣っています。

3今後の方向性
 従来より粒子線治療の適応例としては従来のX線治療での感受性の乏しい腫瘍(頭蓋底腫瘍、頭頸部非扁平上皮癌、肝癌、骨軟部腫瘍など)、早期肺癌、前立腺癌、小児腫瘍が挙げられていましたが、X線治療あるいは化学療法との併用することにより進行肺癌、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、膵癌などの難治癌への適応拡大も行われつつあります。
 現在、兵庫県立粒子線治療センターでは化学療法との併用で膵癌治療に力を入れており、少しずつですが、良い結果が得られるようになってきました。さらに緩和治療あるいは症状緩和治療としても重要な役割を担うものと考えています。例えば単発での肺転移、肝転移あるいは大きな腫瘍塊を有する骨転移病巣も粒子線治療の適応になるものと思います。その意味では粒子線治療の適応例はX線治療より広いと考えて良いでしょう。
 照射技術も現在の方法よりも、さらに腫瘍に近似した線量分布形成が可能な方法が開発しつつあり、兵庫県立粒子線治療センターも2014年初頭には大改修を行い、今、以上に洗練された粒子線治療を目指します。 





治療実績(2012年3月末時点)
当センターでは、2003年4月の一般診療開始から2012年3月までの9年間に4568名の患者さんに治療を行ってきました。

【上位5疾患の傾向と現状】
第1位:前立腺がん
 一般診療開始以来、一貫して第1位で、これまで1600名以上を治療してきましたが、治療効果・副作用とも期待された通りの優れた結果が得られています。

第2位:肝がん
近年、患者数の増加が著しく、2008年度から第2位となっています。ウイルス性慢性肝炎や肝硬変をベースとする肝細胞がんがほとんどを占めますが、何度もがんが出てくることが多いので、複数回の治療を受けられた患者さんが多いのが特徴です。粒子線照射部位は9割再発しないという非常に優れた結果が得られています。

第3位:膵がん
2007年度までは合計でも24名でしたが、2008年度に塩酸ゲムシタビンを同時併用する臨床試験を開始してからの増加はすさまじく、2009年度は55名と第5位に躍り出、2010年度は80名で頭頸部がんと同数4位、2011年度は79名で第3位となりました。最近は、より正確に照射するため、経動脈的マーカー留置を行っています。

第4位:頭頸部がん
2008年度までは右肩上がり、2009年度にやや減少し、その後はほぼ横ばいで、2011年度は膵がんに抜かれ、第4位でした。組織型別では、悪性黒色腫、腺様嚢胞がんといった通常の放射線治療や抗がん剤治療が効きにくいタイプが大部分を占めるのが特徴です。

第5位:肺がん
2011年度は2010年度と比べて約3割減ってしまい、第5位となっています。I期がんは通常の放射線での定位放射線治療が保険適応となっておりますので、そちらを選ぶ患者さんも増えてきていると思いますが、腫瘍径が3cmを超えるT2は粒子線治療の方が良いというデータや重篤な放射線肺炎は粒子線治療の方が少ないというデータが出ています。





 当センターの外来には毎日40名程度の患者さんが来られます。多くは通院で照射を受けておられる患者さんですが、その他には初診(セカンドオピニオン含む)、照射開始前の検査そして照射後の経過観察を目的に来られる患者さんです。

1.外来通院での照射
全国から患者さんが来られることもあり、入院希望の方が多いですが、残念ながらすべての方に入院していただくのは難しい状況です。重症の方に優先的に入院していただくために、前立腺がんの方については原則として通院治療とさせていただいています。希望の方には連携病院(佐用協立病院、相生市民病院、龍野中央病院、石川島播磨病院)に入院の上、通院で照射及び定期診察を受けていただいています。

2.初診(セカンドオピニオン含む)
当センター受診の際にはあらかじめ主治医の先生からFAXで診療情報を提供いただき、粒子線治療の適応となる可能性のある方に実際に診察に来ていただいています。適応のまったくない方に、遠方から来院していただく無駄を省くためにこのようなシステムとなっています。適応の有無にかかわらず、専門医の意見が聞きたい方はセカンドオピニオンを随時受け付けています。

3.照射開始前の検査
治療の開始前にはすべての方に2日間の検査を受けていただきます。検査の内容は疾患によって異なります。この検査の結果で最終的な治療の決定が行われます。

4.照射後の経過観察
粒子線治療後の定期的な診察や検査は基本的には紹介元の病院でお願いし、患者カルテを用いた当センター独自の経過観察を行っています。その中で何か問題が生じた場合や患者さんの希望によっては直接来院の上、専門医による診察を行っています。

より満足度の高い外来運営を目指して、今後も改善できる点は改善を行っていきたいと考えています。何かお気づきの点などありましたら、外来スタッフに直接言っていただくか、あるいは外来受付横の「御意見箱」への投書をお願いいたします。
今後とも外来運営にご協力をいただきますよう、宜しくお願い申し上げます。



 2011年11月から開始した病棟主治医制もしっかりと根付き、より細やかな入院医療を行えるようになってきたと思います。
この1年間の入院患者様の疾患、病状を見ていると、当センターで行っている粒子線治療の変化を読み取る事ができます。最大の変化は進行癌に対する粒子線治療の適応が広がってきたということです。例えば肝臓癌、頭頚部癌、骨軟部腫瘍などの以前から対象としてきた腫瘍についても、より進行した患者様が入院されることが多くなりました。つまり、以前なら治療法がないと思い諦めてしまっていた患者様が粒子線治療を受けられるようになってきたということです。次に、膵臓癌の患者様が増えてきたことです。コンスタントに約10名前後の患者様が入院されています。約40症の入院病床の4分の1を膵臓癌の患者様が占めていることになります。
進行癌の患者様の入院が増えると、癌に付随する合併症や症状に対する治療もより複雑、多様化してきます。このような変化に対応するために、医師、看護師、薬剤師、放射線技師が定期的に集まって癌の症状に対する治療方針の検討をする緩和ケアミーティングを行ったり、薬剤師が1名増員になったことで投薬管理や薬剤相談をより充実させたりするようになりました。患者様に安心して入院していただけるように、このように様々な部門がより良い医療を提供できるように日々努力しています。
2012年11月現在のところ、入院待ちが1ヶ月を超えており、治療を急ぐ患者様には、連携病院であるIHI播磨病院、佐用共立病院、赤穂中央病院に入院していただいています。また、全身状態が良い患者様にはご自宅や宿泊施設からの通院治療を受けていただいています。本来は、入院が必要な患者様、入院を希望される患者様には当センターへ入院していただくべきだと思いますが、物理的に病床数が足らなくなっており、大変ご迷惑をおかけしているところです。今後粒子線治療がさらに広まり、患者数が増えていくのであれば、病棟の拡充等も考えていかなければなりません。
いずれにしても、当センターへ受診される患者様は全員「癌」という困難な病気と闘っておられます。入院加療には病気の治療や体調の管理などの肉体面での医療以外に、精神面でのサポートなどの要素があり、これらは非常に専門性の高い重要な医療です。我々スタッフ一同、今後も真摯に研鑽を積み重ね、さらに良い病棟にしていきたいと考えております。






 放射線技術科は、大学院生3名を含む16名の放射線技師で治療部門・計画部門・診断部門・放射線安全管理・放射線品質管理・医療情報管理などを担当しています。

【目的】

粒子線治療で使用されるビームは、イオン源から核種を一定量取り出し、シンクロトロンで加速して照射するパルスビームである。今回、陽子を加速するパルス周期を1.6秒から1秒に短縮することにより線量率を上げ治療効率を向上させることを目指した。
また、OPF(Operation Parameter File)を調整することで、加速時間、減速時間を短縮して、現状では平均で3.6Gy/min程度の線量率を、施設制限の上限である5Gy/minまで上昇させることを目標とした。また、この改善によって使用するビームの品質および患者様に対する安全性が担保されていることの検証も行った。



【方法】

1.使用する電圧を上げることで、粒子の加速時間・減速時間を短縮させることによって取り出し可能時間の割合を増やし、ビームを効率よく取り出せるようにする。
2.繰り返し周期を1.6秒周期から1秒周期に短縮して、一定時間内でビームの取り出しが可能な回数を増やす。一回のビーム取り出し区間で取り出せるビームの量は一定(0.1Gy)であるために取り出し回数に応じて線量率の向上が期待できる。
3.加速した陽子のエネルギーが許容範囲誤差(±0.05MeV)内であることを確認する。PON(測定した電圧を基にビームが中心軸からどの程度ずれているか、ビームの周波数はどの程度かを算出する装置。加速器の円周上に12個配置されている。)で測定したビーム軌道の中心軸からのずれと、PONで測定したビームの周波数を用いて実際の陽子が持っているエネルギーを算出している。この値と設定値の誤差を確認する。
4.線量率を上げたことでGATE OFF状態での漏れ線量が規格内(GATE ONの線量に対するGATE OFFの線量が0.08%以内)であることを確認する。
5.輸送系でのビーム軸の変動がX軸Y軸ともに許容範囲内(±2mm以内)であることをPONを用いて測定し、確認する。
6.臨床で1秒周期の治療を行い照射時間の短縮を確認する。



【結果】

1.H230(230MeVの陽子線)では電源電圧仕様性能の90%レート、H210では電源電圧仕様性能の80%レートまで電圧を上昇させる事により、加速時間を229msから182msに短縮できた。
2.繰り返し時間は、加速時間、減速時間と取り出し可能時間を短縮することで1.6秒周期から1秒周期に短縮して、OPFの変更を行うことでビーム取り出し可能時間の割合を増やし、ビームを効率よく取り出せるようになった。線量率は、H150で最大1.86倍になりH210では最大1.64倍になった。このことから照射効率の向上が見られたといえる。
3.エネルギー誤差はH150で0.408MeV、H210で0.427MeVであり規格値である±0.05MeV以内におさまっており許容範囲内であった。
4.GATE ON状態で測定線量が146561カウントに対しGATE OFF状態での漏れ線量が13カウントと0.008%程度の漏れ線量であり、規格内であった。
5.輸送系でのビーム軸の変動がX軸Y軸ともに±2mm以内で許容範囲内であった。
6.臨床で陽子線を1秒周期で加速して治療を行い、通常照射で平均30%、呼吸同期照射で25%の照射時間の短縮効果を確認した。



【結論】

陽子線加速周期を短縮することで線量率の向上が見られ、通常照射・呼吸同期照射の両者において照射時間の短縮を図ることができた。また、単純に加速周期を短くするだけではなくOPFを調整することで電源電圧仕様性能を無駄なく使用することができ、十分なビーム取り出し区間を設定することができた。ビームのエネルギーやビームの輸送系でのビーム軸のぶれが許容範囲内に収まっていたというところから、加速周期を短縮してもビームの品質が担保できていることが確認できたといえる。漏れ線量の測定値からも、GATEをOFFにしている間の漏れ線量は0.008%程度と規定値の1/10程度に収まっており、安全性の担保も確保できた。この治療時間の短縮は治療時間中の患者の体動の可能性を減らすことができ、治療精度の向上が期待できる。線量率の改善の面からも同じ時間でも照射できる線量が多くなるために、患者さんの待ち時間を軽減できるなど治療効率の向上も期待できる。今後は当施設で用いられている炭素イオン線に対しても陽子線の場合と同様に展開していき、照射時間の短縮、治療効率の向上等検証していきたい。






 物理科職員は医師・看護師・放射線技師のように患者さんと直接接することはありませんが、患者さんに安全な治療を安心して受けられるよう日々装置の管理を行っています。しかし、時に装置が故障し患者さんにご迷惑をおかけする場合があります。
ここ最近、加速器のトラブルによって治療ができなかったり遅延したりして患者さんに大変ご迷惑をおかけしました。要因の1つが加速器制御系のトラブルです。なかでもシンクロトロンを制御している制御盤のトラブルが頻発しました。制御系のトラブルは考えられる要因がたくさんあるため、その特定に時間が掛かってしまいます。

シンクロトロンはビームのエネルギーに様々な機器を同期させてビームを加速します。その制御は非常に複雑なため特殊なボード(小さな計算機)を構築しています。ボードの数は130台にもなります(図1)。それらを統一して動作させるために各ボードが通信を行います。表題のVMEはコンピュータの通信規格の1つですが、シンクロトロンの制御システムがVME規格の上に構築されているので、このシステムは単に(シンクロトロンの)VMEと呼ばれています。


治療計画作業中
図 1:シンクロトロン制御盤の一部。たくさんの小さな計算機(ボード)がVME規格で通信を行い連動している。
この制御システムは放射線医学総合研究所で開発されたものです。当時も開発途上にあったため当時の病気も引き継いでしまいました。また開発メーカが三菱でなかったため改修に時間を要しました。図2に加速器の障害数の推移を示しました。年々、障害数は減少しています。最近ではほぼ横ばいとなりました。制御に関する障害は全体の2割程度ですが、少しずつ減少しています。


運転技術員による測定
図 2:加速器の障害数の年次推移。

当センターが建設されてから12年が経ちました。12年前はその当時できるだけ確実に動くものを使って装置を設計しました。その後12年間に様々な技術革新がありました。今、機器更新の時期に来ています。新しく開発された技術を使って、より安定に安心して治療が受けられるよう改修していく予定です。装置が止まることによって患者さんが不利益を受けないようこのVME制御盤もより安定して動くものに変更していきます。


●研究開発
最先端の粒子線治療装置も10年が経過しました。10年の間に様々な技術が世界中で開発されてきています。今後の10年においても最先端を維持し続けるために、装置の更なるアップグレードを目指して研究開発を行っています。






 私は、2011の夏から半年間、京都府看護協会の「がん放射線療法看護」認定看護師教育課程に入学し、放射線療法と看護について学びました。そして、2012年7月認定審査に合格し、認定看護師の一歩を踏み出しました。
粒子線医療センター開院から約10年経過し、年々治療基準が拡大され、様々な疾患をもつ患者さんが粒子線治療を受けられるようになりました。そのような中で、放射線治療をきちんと理解して受けることができ、その後安心して治療後の経過観察が行える環境が、まだまだ整っていない現状を実感してきました。当センターは、粒子線治療に特化した施設であり、治療後は紹介元病院で経過観察を実施していただいています。まだまだ粒子線治療自体が浸透しているわけではなく、治療後の経過における悩みや不安を理解し答えてくれる医療者の存在が少ないのが現状だと思います。そのような状況を経験してきて、患者さんが治療中はもちろん、治療後も安心して過ごせるような療養環境を整えるためには、医師だけでなく、病院間の看護師同士の連携が必要だと感じました。認定看護師となり、他施設との看護師との連携を図っていくことで、患者さんが安心できる療養環境を整えたいという思いから、がん放射線療法看護認定看護師を目指しました。
 現在当センターでは、抗がん剤併用の粒子線治療なども行っており、副作用の現れ方も様々になってきました。食欲不振により食事摂取が難しくなったり、倦怠感が強くなったりする方も増え、患者さんは大変な思いをしながら治療を頑張っておられます。そのような状況の中で、患者さんが予定の放射線治療を完遂できるように、有害事象の苦痛が最小限で、精神的にも安定して治療に臨めるような支援をしていかなければなりません。医療の進歩に合わせて、看護も専門的知 識を深めながら、より良い看護支援ができるようスタッフ全体のレベルを上げていけるよう取り組んでいくことが認定看護師としての役割だと考えています。

 

適応疾患の拡大により、患者さんの粒子線治療後の経過も多様化してきました。いろんな不安を抱えながら継続治療を受けられる方も増えており、治療後のフォローが重要であると感じています。
治療後においては、当センターでは経過観察室を設けており、患者さんの相談を受けています。治療直後だけではなく、長期的に治療効果や有害事象などを気軽に相談できるような窓口にできれば、異常の早期発見にもつながると考えています。当センターの経過観察室には、開院当初より粒子線看護に携わってきた粒子線のエキスパートナースがそろっているので、がんサバイバーとして生きていく患者さんのパートナー的な存在になれるといいなと思います。
 今後は、治療中の看護ケアの向上はもちろん、紹介元病院との看護師間の連携を築いていき、患者さんが安心して治療後の生活を送れるような環境づくりにスタッフと共に取り組んでいきたいと思います。
 最後になりましたが、半年間の研修に快く出していただいた当センターのスタッフの方々に深く感謝いたします。






 昨今、先進医療である粒子線治療への期待は高まり、治療適応も拡大され、進行がんや高齢者も増加しています。この施設の期待も大きく、全身状態の良くない方や痛みをコントロールしながら治療を受けておられる方も多くおられます。
その中で、抗がん剤併用療法やがん性疼痛管理、既往症への対応(持参薬管理)、粒子線治療の有害事象対策等、適正な薬物療法、副作用管理は重要で、薬剤師が担うべきことが多くあります。
このような状況において、昨年のニュースレターでも記載しましたが、『全ての患者さんの薬学的管理を行うこと』を薬剤科の課題にかかげています。
一方で、平成24年4月の診療報酬改定において、薬剤師が病棟において、薬物療法の有効性・安全性の向上に資する業務が評価され、入院基本料の加算として病棟薬剤業務実施加算が新設されました。
薬剤師の病棟における業務を通して、
@入院患者に対する最適な薬物療法実施による有効性・安全性の向上
A疾病の治癒・改善、精神的安定を含めた患者のQOLの向上
B医薬品の適正使用の推進による治療効果の向上と副作用の防止による患者利益への貢献
C 病棟における薬剤(注射剤、内服剤等)によるインシデント・アクシデントの減少
D薬剤師の専門性を活かしたチーム医療の推進
のアウトカムを得ることを目的としています。
このタイムリーな時期に、当薬剤科においても平成24年4月、常勤正規薬剤師が2名へ増員され、これを機に体制を見直し、薬剤業務を大きく変革させました。
T 薬剤管理指導業務開始(H24.4〜診療報酬算定)
U 病棟薬剤業務開始(H24.7〜診療報酬算定)
@特定患者の服薬指導から全入院患者を担当薬剤 師制とした薬剤管理指導業務へ変更した。
A持参薬管理は、薬剤師初回面談(入院初日)を取り入れた医師・看護師との連携体制とした。
B抗がん剤併用療法について院内体制を医師・看護師と共に検討した。特に薬剤師は、投与計画確認、抗がん剤無菌調製、患者指導・副作用確認等を担っている。
C疼痛管理体制について積極的な提案を行い、緩和ケアチームとして活動を開始した。
D粒子線治療の有害事象対策として、口腔ケア、皮膚ケア、消化管障害対策等の薬物療法に引き続き関わる体制とした。

このように薬剤師は、医師、看護師、技師等と 協働して粒子線治療を受ける患者様の薬物療法管理を行っています。 特に入院患者さんに対しては、入院時から日々関わり、より良い状態で苦痛なく治療を受けていただけるよう励んでいます。