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CONTENTS

■□ 兵庫県立粒子線医療センターの過去・現在・未来

■□ 兵庫県立粒子線医療センターにおける粒子線治療の現状

■□ 兵庫県立粒子線医療センターに勤務して

■□ チームで取り組む医療安全

■□ 粒子線治療における4D-CTを用いた呼吸性移動量測定の有用性

■□ 兵庫県立粒子線医療センターに来て感じたこと

■□ ハイブリッドをめざして

■□ 粒子線医療における薬剤業務の進展2013

■□ 粒子線医療の普及と発展に貢献する「株式会社ひょうご粒子線メディカルサポート」




 兵庫県立粒子線医療センターは、炭素イオン線と陽子線の2核種を使用できる世界初の施設として2003年4月1日から治療開始されました。 自治体として初めての粒子線治療施設であり、国内では放射線医学総合研究所(放医研)、筑波大学、国立がんセンター東病院についで4番目に設立された施設になります。 現在での総治療人数は5,000人を超え、我が国では放医研に次ぐ治療人数になっています。本稿では設立に至る経緯、現状、そして今後の展望について述べてみたいと思います。

1.設立に至る経緯
 1987年兵庫県は「ひょうご対がん戦略会議」を設置し、「がんによる死亡率を可及的に下げること」を目標とし、総合的対がん戦略の推進を目指しました。 そしてこのリーディングプロジェクトとして「粒子線治療」が位置づけられ、2001年から薬事承認のための粒子線治療が開始されました。構想から14年を要した訳であり、 兵庫県の行ってきた事業でも特筆すべき事業と捉えられることができます。
 2001年陽子線治療30例、2002年炭素イオン線治療30例の薬事申請のための臨床試験が開始され、陽子線一般診療は2003年4月、炭素線一般診療は2005年3月に開始され、現在に至っています。 図1に年次別の線種別の症例数を示しますが、2006年には500名、2007年には600名を超え、2009年以降は年間700名弱の症例数を治療しています。 2013年3月までの総症例数は5,242名となりました。表1に癌の種類別の症例数を示します。


表1 線種別症例数 (2003年4月〜2013年3月)
  総計 陽子線 炭素線
前立腺癌 1821 1821 0
肝癌 942 543 399
頭頸部癌 704 284 420
肺癌 502 233 269
骨・軟部腫瘍(肉腫) 191 76 115
1082 723 359
5242 3680 1562


2.本施設の特徴
粒子の加速はシンクロトロンと呼ばれる大型の加速器で行われ、円周は93.6メートルに及びます(図2)。 治療室は5室あり、ガントリー室2室、水平照射室1室、水平と垂直照射室1室、45度からの照射が可能な治療室が1室の構成となっています。
当院は粒子線治療に特化した病院のため、照射後の経過観察の診察は原則なく、全国の紹介元病院と連絡をとりながら治療および有害事象の評価を行う 遠隔診療のシステムをとっています。患者様は、紹介元病院で検査や診察を受け、自覚症状や相談ごとなどの問診票と同時に画像検査、 血液検査を3カ月ごとに当センターに送付して頂きます。当センターでは、医師がデータをもとにカルテ診察を行い、患者様に文書で経過をお知らせします。 専門の教育を受けた看護師が電話相談やメール相談をおこなっており、治療後の経過の中で皮膚炎などの有害事象のケアやがん患者としての心配事などは、 医療チームで患者様の経過や有害事象の状況の把握に努めています。

3.今後の課題について
 当院は肝癌、膵癌例が多いことが特徴ですが、これらの臓器は呼吸性移動以外にも消化管内容物による動きも無視できません。 そのために腫瘍の近くに金属(マーカーと呼ばれます)の挿入を行っていますが、より安全に、より正確に金属マーカーを挿入するための専用CTの導入を2014年に行ないます。 また当院の炭素線治療は使用エネルギーの関係で深部臓器、特に前立腺癌への応用が出来ませんでしたが、2014年中には炭素線の使用エネルギーの出力上昇を行い、全ての腫瘍に対し、炭素線治療を可能にする予定です。
 最初に述べたように世界で最初に陽子線と炭素線の両線種での治療が可能となった施設であり、陽子線治療と炭素線治療との臨床上の違いを明らかにすることが本施設の重要な使命と考えています。 過去の治療成績の検討では早期肺癌、頭頸部悪性黒色腫、頭頸部腺様嚢胞癌、肝癌、骨・軟部腫瘍において治療効果、副作用において差は認めていませんが、今後は外国の施設とも提携し、 陽子線治療と炭素線治療との臨床上の違いを明らかにしたいと考えています。
開院して10年経過しました。次の10年は今まで積み重ねて来た石(基盤)をさらに安定化させ、強固にし、小さな石でも少しずつ積み上げ、さらなる治療成績の向上に努めたいと考えています。



治療実績(2013年3月末時点)
 当センターでは、2003年4月の一般診療開始から2013年3月までの10年間に5,242名の患者さんに治療を行ってきました。

【上位5疾患の傾向と現状】

第1位:前立腺がん
 一般診療開始以来、一貫して第1位で、これまで1800名以上を治療してきましたが、治療効果・副作用とも期待された通りの優れた結果が得られています。 同じ放射線系の治療として、強度変調放射線治療(IMRT)や小線源治療といった選択肢もある中、これだけの患者さんに選んでいただいているのは、当センターの実績が評価されている証拠だと思っております。

第2位:肝がん
 2008年度から第2位となっていますが、ここ2年はやや減っています。粒子線照射部位は9割再発しないという非常に優れた結果が得られていますが、 肝内他部位に再発(新たな病変)することが多く、複数回の治療を受けられた患者さんが多いのが特徴です。当センターは世界初の陽子線・炭素イオン線の 両方が使用可能な施設として開院しましたが、両線種の差を科学的に検証するために肝がん患者さんを対象に比較試験を行っております。

第3位:膵がん
 2008年度に抗がん剤ジェムザールを同時併用する臨床試験を開始してから患者数が一気に増加しましたが、ここ2〜3年はやや落ち着きつつあります。 ジェムザールが効かなくなってから当センターを受診される患者さんも増えてきましたので、もう一つの抗がん剤ティーエスワンを同時併用する臨床試験も行っております。

第4位:頭頸部がん
 ここ数年は70〜80名で推移しています。組織型別では、悪性黒色腫、腺様嚢胞がんといった通常の放射線治療や抗がん剤治療が効きにくいタイプが多いのが特徴ですが、 頭頸部がんの大部分を占める扁平上皮がんに対してティーエスワンを同時併用する臨床試験を開始しました(ただし、対象は鼻副鼻腔がんに限ります)。

第5位:肺がん
 2011年度は2010年度と比べて約3割減りましたが、2012年度は約1割増えました。I期がんは通常の放射線での定位放射線治療が保険適応となっておりますので、 そちらを選ぶ患者さんも増えてきていると思いますが、その適応とならない5cmを超える腫瘍や周囲(胸壁や縦隔など)に浸潤する腫瘍にも根治的な治療が可能です。





 平成24年7月から兵庫県立粒子線医療センターに勤務させていただいております、放射線科医師の木克と申します。
昭和52年1月17日生まれ。血液型はA型、ヘビ年、山羊座、どうぶつ占いは子鹿です。幼少期から高校卒業まで埼玉県で過ごし、北海道立札幌医科大学に入学後、 約15年間北海道で暮らしていました。元々は本州出身ですが、長年の北海道暮らしですっかり暑さに弱くなってしまっています。自分では標準語を話しているつもりです。 兵庫県で暮らして約1年が経過し、ようやく気候や食べ物、言葉や文化の違いにも慣れて来たと感じております。
 平成14年(2002年)札幌医科大学医学部を卒業し、その後北海道がんセンター、市立札幌病院、札幌医科大学放射線科などの北海道の総合病院の放射線治療科に勤務しておりました。 比較的病床数が多い病院、化学療法併用や小線源治療を積極的に行っている病院を中心に研修を積ませて頂きました。 現在までの経験では、主に前立腺癌を中心に、その他頭頸部がん、食道がん、肺がん、乳癌などの症例を多く治療してきました。
 周囲からは、新しい治療法を身につけるのが得意、と思われていたようで、前立腺癌に対する組織内照射(125Iを用いた低線量率組織内照射)や、 IMRT(強度変調放射線治療)などの治療をスタートする時に関わらせていただいていました。この度、粒子線治療という新しい治療を学ぶべく、 兵庫県立粒子線医療センターの方に勤務させていただく事になりました。
 平成22年(2010年)に学位(医学博士)を取得しました。専攻は放射線生物学で、放射線増感剤の研究をしていました。 その他、第一種放射線取扱主任者、医学物理士、がん治療認定医の資格を持っていますが、いずれの知識も技術も、専門の方々には及びません。 中途半端な知識ばかりで、正直自分でも「器用貧乏」な感じがしています。
 私個人としましては、今後放射線治療は更に分化・専門化が進み、より多くの専門職が関わるチーム医療化が進んでいくのは間違いないと考えています。 そのチームの中で我々医師の立ち位置を考えてみて、広い分野の知識を持ち、選択できる中で最善の方法を選べる様になるべきと考え、 現在までなるべく多くの関連分野について勉強してきました。今後も各専門の先生方に教えを請いながら、粒子線治療に関わる広い分野について研鑽を積んでいきたいと思っています。 色々な方々にご迷惑をおかけすることになるかも知れませんが、よろしくお願い申し上げます。
 最初は今まで仕事としていたX線治療と粒子線治療の違いに戸惑う事も多かったですが、最近ようやく慣れてきた様に思います。 短い期間の経験ですが、粒子線治療を用いることで今まで治らなかった疾患が治せるようになり、またX線治療で治療を行っていた疾患もより上手に治せる疾患もある事を知りました。 資金や土地の問題もあり、なかなか簡単に日本全国に広まる治療法では無いとは思われます。またこれらの問題をクリアできたとしても、 最終的に使いこなせる人員が居なければ宝の持ち腐れになってしまう恐れもあります。しかし粒子線治療は今後我々放射線治療を行う者にとって強力な武器になる事は間違いないと感じています。 もちろん簡単に使いこなせる治療法では無いと考えておりますが、特に人材の育成に関しては、兵庫県立粒子線医療センターは日本一の粒子線治療施設と考えております。 なるべく多くのことを学んで帰える事が出来れば、と日々考えております。
 ちなみに名前は「まさる」と読みます。自分の弱い心に負けないように、と祖父が付けてくれた名前です。 なかなか名前に込められた期待に見合う人間になれてはいないと日々痛感しております。今後なるべく名前に恥ずかしくない行動が出来ればと考えていますので、皆様今後とも何卒御指導よろしくお願い申し上げます。



 医療事故が注目され、全国的な取り組みが始まった1999年から14年。この間に医療安全は、法律や制度、又現場でも様々な変化がありました。 大きな動きの一つは医療安全管理を担当する「リスクマネジャー」が病院全体の役割として各部署に任命され、活動を始めたことです。
 当センターには独立した医療安全管理室(推進室)はありませんが、安全管理部門を掌る部門として設置されたリスクマネジメント部会と医療事故防止対策委員会とが連携してその役割を担っています。 リスクマネジメント部会は、医療安全管理者のもと、看護部が中心となり月1回定期的に開催しています。部会で検討された情報や問題提起等の内容は、 各リスクマネジャーからスタッフ一人一人に伝達し医療安全対策が周知され、患者さんに安全と安心を提供できるように努めています。

※リスクマネジメント部会※
【メンバー】
放射線科医師2名・放射線技術部2名・看護部2名・薬剤科1名・総務部1名(計8名)

【主な役割】
*医療事故報告・ヒヤリハット報告集約・分析・防止対策・改善方法等に関する事
*医療事故防止、医療安全対策の職員への周知徹底、教育等に関する事
*医療事故防止委員会に対する検討結果の報告提言等に関する事
*その他リスクマネジメントに関する事  など

H25年度の当センターの重点取り組み

「誤認防止」と「転倒転落」です

【誤認防止】
 患者さんと共に患者間違いによる事故防止の取り組みを進めています。外来入院に関わらず、診察・検査・治療・採血・薬局・受付等、患者さんにフルネームで名乗って頂いています。






【転倒転落】
 看護部の年度別ヒヤリハット件数項目の上位は表の通りとなっています。治療を受けられる患者さんの高齢化や、治療内容の拡大に伴う病態の複雑化もありH22年度より転倒転落が1位です。 転倒転落が起こらない様に、転倒転落したとしても障害が最小限にとどまる様に対策を立てる事が大切です。 看護部では、入院時(通院患者さんはクリニカルパス開始時)に転倒転落の事故の危険性を予測する「転倒転落アセスメントシート」を用いて、 患者さんと共に個別性にあわせた予防策を考えています。治療棟における予防対策としては、放射線技師との情報共有や電子カルテ内には転倒転落の危険性を表示し、チーム全体で取り組んでいます。

  22年度 23年度 24年度
1位 転倒転落 転倒転落 転倒転落
2位 与薬 与薬 与薬
3位 検査 麻薬 麻薬
 今後も、スタッフ一人一人が医療安全に対する理解を深め、院内の医療安全文化の醸成と意識の向上をめざしていきたいと思います。

 当センターでは呼吸性移動を伴う腫瘍に対して粒子線治療を行う場合、X線TVを用いた腫瘍の呼吸性移動量の測定を実施している。 この測定結果はInternal marginの設定に利用されており、呼吸性移動量の大きさに応じた呼吸同期照射の閾値の決定にも用いられている。 しかし、肺がんの微小病変や腫瘍の位置によってはX線TVを用いた呼吸性移動量測定が困難な場合がある。 このような場合でも、通常のCT画像に時間軸の要素が加わる4D-CTを撮影することで、従来困難であった病変の正確な呼吸性移動量の評価が可能であると予測される。 今回4D-CTを用いた呼吸性移動量の臨床導入を行う準備としてファントムによる検証を行った。

【目的】
 4D-CTを用いた呼吸性移動量測定と従来のX線TVを用いた測定法とをファントム検証で比較・検討を行い4D-CTを用いた呼吸性移動量測定の結果が従来法と同等の精度で評価できることを確認する。

【方法】最呼気位相画像の精度
  1. 基準となる最呼気位相画像を取得するため、QUASAR内に径10mmの球を疑似腫瘍としたファントムを設置し、QUASARを最呼気位相で静止させCT撮影。
  2. QUASARの振幅(10mm,20mm,30mm)および呼吸数(BPM:11,15,30)も変化させながら体軸方向へ可動させ、呼吸同期装置を用いて最呼気位相画像の呼吸同期CT(コンベンショナルCT),4D-CTをそれぞれ撮影。
  3. QUASARを最呼気位相で静止させた時の疑似腫瘍位置を基準とし、コンベンショナル撮影時・4D-CT撮影時の最呼気位相についてスライス厚2mmと0.5mmとで比較。このとき疑似腫瘍位置はaxial面ではじめて疑似腫瘍が現れる位置としている。
(1) 4D-CTとX線TV間での呼吸性移動量の精度比較
  1. (1)で取得した4D-CT撮影データから、最呼気・最吸気位相で画像再構成(スライス厚2mm,0.5mm)を行い、最呼気−最吸気間における疑似腫瘍の移動量を測定。(1)と同様にaxial面ではじめて疑似腫瘍が現れる位置を擬似腫瘍の位置として測定している。
  2. QUASARの振幅および呼吸数を(1)の場合と同条件で変化させ、X線TVを用いて疑似腫瘍の動きを連続撮影し、撮影された画像を用いて最呼気−最吸気間の疑似腫瘍の移動量を測定。
  3. (1),(2),で得られた移動量測定結果を比較。
【結果】最呼気位相画像の精度確認
 表1,2に最呼気位相で静止させた時の疑似腫瘍位置を基準としたコンベンショナル撮影時の最呼気位相における疑似腫瘍位置の差を示す。 スライス厚2 mmにおいて、コンベンショナル撮影時と4D-CT撮影時の疑似腫瘍位置に差がないことが確認できた。

表1,2 最呼気位相での疑似腫瘍位置の差(単位:mm)表1.スライス厚2 mm 表2.スライス厚0.5mm

4D-CTとX線TV間での呼吸性移動量の精度比較
 表3〜5に振幅を変化させたときの4D-CTとX線TV間の疑似腫瘍位置の比較結果を示す。4D-CTスライス厚2mmで測定した疑似腫瘍の移動量は、 設定された振幅と一致していた。4D-CTスライス厚0.5mmの測定結果では、設定した振幅に対して1mm以内の差であった。 X線TVでの測定結果では、設定した振幅との差が4D-CTで得られた結果より差が大きいものの最大1.4mmの差であった。

表3〜5 移動量測定の比較(単位:mm)

【考察】
 今回の検証により、治療計画に使用しているスライス厚2mmにおいて4D-CT撮影時の最呼気位相における疑似腫瘍位置はQUASAR静止時・呼吸同期CT撮影時の疑似腫瘍位置と一致しており、 4D-CT撮影時で最呼気位相画像取得が可能だと確認できた。スライス厚0.5mmで測定では、最呼気位相の疑似腫瘍位置・疑似腫瘍の移動量に差がみられたが、 これは疑似腫瘍位置の決定方法やスライス厚に対する適切な呼吸同期CTの閾値設定などが原因であると推測され、今後追加検証が必要であると考える。

【結語】
 今回の検証によって、4D-CTを用いた呼吸性移動量測定は従来のX線TVを用いた測定結果と差はほとんどなく、 何らかの理由でX線TVによる腫瘍の呼吸性移動量計測が困難な場合に有用な方法であると考える。



 最初に面接で兵庫県立粒子線医療センターに来たときのことが頭に浮かぶ。東京から新幹線で大阪まで来た後、車で数多くのトンネルを通り抜け、数時間かけてようやく辿り着いたのは、山に囲まれた緑豊かで静かな町であった。そして、それからあっという間にもう2年以上の月日が流れた。最も印象的だったのは、皆の仕事に対する姿勢であった。一人一人の患者さんに対してベストを尽くす意識が素晴らしい。医師、看護師だけではなく、技師など現場の全員が患者さんにきちんと理解してもらうため、どんな些細なことでも丁寧に分かるまで説明する。最善の治療計画を作るため、一例一例十分な討議を経て、何回も比較し、最終的に患者さんに一番メリットのあるプランを採用する。最も正確な治療を行うために何回も検証する。皆の根性と責任感がたっぷりと滲んでいた。また、ハードで膨大な仕事の前でとにかくやり遂げる姿勢を持っていた。

 炭素イオン線、陽子線両方の治療ができるアジアで唯一の施設で(世界でも3ヶ所しかない)、10年間で5000例以上の蓄積が あり、日々そのデータを解析し、より良い粒子線治療法の開発に邁進している。そのノウハウを習得するため、数多くの医療者、研究者が国内は言うまでもなく、海外からも多数当センターを訪れている。私も中国から来て、こんなに素晴らしい施設で学べたことを常に誇りに思っている。

 世界でも有数の施設として知られ、海外からも数多くの問い合わせが来る。この一年近くで、私一人でも600以上のメールや電話でのやりとりを行った。当センターで治療を行った中国の患者さんからこんな感謝の言葉をいただいた。「治療のために来日した今回の旅は感慨無量で一生忘れないだろう。医療技術は言うまでもなく、サービスも完璧であった。病院スタッフの皆さんに家族のように親切に接していただき、日々感動が絶えなかった…」と。今後も評判はますます広がり、さらに多くの患者さんに健康をもたらし、国際貢献にも寄与して行くに違いないと感じている。



 私は昨年の採用試験後、少し早めに10月から勤務し始め、この4月から放射線物理科で正式に採用されました。

 実は最初から放射線治療の分野の勉強や研究をしていたわけではなく、修士課程までは原子核物理を専攻し、放射線を計測することで原子核の構造を研究してきました。放射線を用いて癌の治療が行われていることを知ったのはそのときでした。当時、基礎研究よりもっとすぐに人の役に立つとわかることがしたいと思っていた私にとって興味を引かれる応用分野であり、すぐに放射線治療の分野に飛び込みました。博士課程では医学の勉強、病院実習などをしつつ、X線の強度変調放射線治療(IMRT)の研究をしてきましたが、以前から興味のあった粒子線治療をできる施設への就職を志望し、当センターに来ました。

 放射線物理科の主な業務には、加速器運転や保守、治療計画、品質管理、研究開発などがあります。その中で4月からの半年間は主に治療計画作成を担当してきました。治療計画では患者さん毎に最適な線種(陽子or炭素)、エネルギー、ビームの向きなどを設定します。半年間の間には、巨大な腫瘍を治療するのに2つ以上の照射野をつなげたり、前回治療時の照射野をさけたビームを考えたり、難しい治療計画もいくつか担当させていただき、そのたびに成長してきていると思います。治療計画は治療成果に直接影響してくる仕事で責任を感じますが、まさに人の役に立てていると実感できる仕事で充実しています。

 今後、炭素線のエネルギーアップやその他機器更新も予定されており、まだまだ粒子線治療は進化の過程にあります。また、粒子線施設はどんどん増加しているようです。他の粒子線施設に負けないよう、研究開発を進めていくことも物理科に求められていることだと思います。治療計画などの日々の臨床業務にはそろそろ慣れてきたので、次は研究開発にも力を入れていこうと思います。

 せっかく物理と医学どちらも勉強してきたのでそれらを生かして、今はやりのハイブリッドを目指し、臨床と研究どちらもがんばっていきます。



 先進医療である粒子線治療への期待がますます高まる中、当施設も多くの患者さんを受け入れ、進行がんや高齢者も増加しています。このような状況において、薬物療法管理は重要であり、薬剤師の果たす役割も大きくなっています。

 当薬剤科も昨年度に常勤正規薬剤師が2名体制となり、薬剤管理指導業務・病棟薬剤業務の開始、種々のチーム医療活動への積極的な参画等、業務は大きく変革し、充実してきました。(現在、正規薬剤師2、非正規事務職員1)

 薬剤科では、『粒子線治療を受ける全ての患者さんへ 安全・安心な薬物療法支援を行います』を基本方針とし、以下の3本柱を掲げて日々励んでいます。

  1.  患者さんの症状管理(既往症、がん疼痛等)
    様々な既往症により持参薬も多種類になっており、医療用麻薬によるがん疼痛管理が必要な患者さんも増えています。薬剤の自己管理状況確認、薬剤の適正使用推進に取組んでいます。
  2.  粒子線治療における抗がん剤併用療法管理
    抗がん剤併用による粒子線治療効果向上への期待は大きく、当施設では膵臓がん、肝臓がんで行われ、今後も拡大の兆しがあります。抗がん剤投与量・日程の確認、抗がん剤調製、患者薬剤指導・副作用確認等は薬剤師が担う役割です。
  3.  粒子線治療による有害事象への対応
    粒子線治療による皮膚炎、粘膜炎(口腔・消化管等)、放射線宿酔への対応やまれに起こる放射線肺臓炎にも注意が必要です。早期からの有害事象軽減対策や発現後の薬剤適正使用も重要であり、薬剤師も共に関わっています。
病棟薬剤業務
入院から退院まで一貫して患者さんの薬物療法に関わることに責任とやりがいを感じています。これからも安全・安心な薬物療法を提供できるよう日々精進していきたいと思います。  薬剤師 團 優子  


 兵庫県立粒子線医療センターは陽子線と炭素線の両方の線種が使える世界で最初の施設として2001年に開設され、これまで間、先進医療としては国内随一の治療実績を誇るとともに専門性の高い治療ノウハウを蓄積し様々な技術改良も行ってきました。また計画段階から治療装置のコミッショニング調整や人材育成など他施設の立上げを支援してきた実績もあります。

 このような様々なノウハウをもとに、新たに粒子線治療装置を導入する施設に対し、施設のスムーズな立上げや安全かつ効率的な治療を支援していくため、兵庫県では、2011年11月1日、粒子線治療に関連する企業と共同出資をして「株式会社ひょうご粒子線メディカルサポート」(略称:HIBMS「ハイビームス」/Hyogo Ion Beam Medical Supportの頭文字)を設立しました。

 これにより多くの患者がより身近に、安全安心で治療効果の高い粒子線医療が受けられる環境づくりを促進し、侵襲性が低くQOL(生活の質)の優れた粒子線医療の国内外における普及と発展に貢献していくこととしています。

 HIBMSでは初年度から黒字化を達成し続け、今年度は国内で複数件契約したことにより、これから本格的に支援事業を実施していくこととしています。

 また、「高線量率照射」、「高精度スキャニング」、そしてその高精度スキャニングと現在のブロードビーム照射などが一つのノズルで可能となる「ユニバーサルノズル」などを提案してきました。今後は他に例を見ないようなより精緻な治療ができる様々なソフトも順次発表し、これから導入を予定する施設の標準モデルとなるように関西イノベーション国際戦略総合特区などを活用して早期に製品化し、新規施設への導入を支援していくことにしています。

 HIBMS国内のみならず、広く世界に対しても粒子線医療の普及と発展に貢献していきますので、これからのHIBMSの活躍にぜひご期待ください!